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緊縮政策を拒否したギリシャは本当に怠惰な「国民性」なのだろうか [社会情勢]

 そもそも国という概念でそこの人民を定義づけることに極めて懐疑的な私は、「国民性」という言葉にも当然否定的なのだが。

 ギリシャに急進左派のチプラス政権が生まれてから早半年。EUからの借り入れ返済をめぐって、事実上のデフォルト状態に陥っていることが連日話題になっている。

 そりゃ、チプラスは緊縮財政を批判して政権についたのだから、ここで引くこともできない。今後の行く末をめぐって国民投票を実施すると宣言し、のらりくらりとたたかっているように見える。
 そして今日、緊縮政策を問う国民投票は、実に6割以上の反対票によって結果が示された。

 さて、このようなギリシャの混迷に、日本のメディアではやれギリシャの「怠惰な国民性」だとか、「高額な年金」だとかが一方的に提示されている。暗に借金を背負っているのだから緊縮財政を受け入れて堪え忍べ、といわんばかり。

 ただ実相はそうでもないようだ。最近の「しんぶん赤旗」では、ちょっと違った視点から記事を提供している。

ギリシャ問題どうみる 緊縮政策で不況悪化 EUの理念 根底から問われる(しんぶん赤旗:2015年6月30日)


 ギリシャへの財政支援をめぐる同国と欧州連合(EU)との交渉では、EU側が年金のいっそうの削減と日本の消費税に相当する付加価値税の増税を求め、ギリシャのチプラス政権がこれに抵抗するという構図が、2月の交渉開始以来続いてきました。

 「緊縮ストップ」を公約にして1月の総選挙に勝利したチプラス政権にとって、「安易な妥協は政権基盤を揺るがす」という事情があります。他方EU側にも、ギリシャの言い分を認めれば、同様に厳しい緊縮政策を求めているスペインやポルトガルなどにも悪影響が及ぶとの懸念があると指摘されています。

 しかし、国民の暮らしの視点から、2010年以来のギリシャ支援と緊縮政策の実態がどうであったかをみる必要があります。

 公務員の削減、賃金カット、社会保障の切り下げ、年金カット、増税、水道をはじめとする公共サービスの民営化など、極端な措置が大々的に実行されてきました。  その結果、国民の3割が無医療保険者となり、年金生活者の44・5%が貧困ライン以下の生活を余儀なくされ、自殺者も激増。失業率は現在も25%(若年層では50%)の高率にあります。与党の急進左派連合(SYRIZA)はこれを「人道的危機」と指摘しています。

 債務の元利払いを除く財政収支(プライマリー・バランス)では均衡を取り戻しながら、財政赤字削減のための緊縮政策は不況を悪化させ、国内総生産(GDP)は危機前に比べて25%低下。当然、税収は減り、かえって債務は対GDP比で危機前の120%前後から170%超へと激増しました。債務の「健全化」(EUでは対GDP比で60%以下)はますます達成不可能になっています。


 「自殺者も激増」とはどのようなレベルか。NAVERにまとめ記事があった。

「自殺者が36%増」ギリシャの自殺者増加が深刻になっていた...
(ギリシャの急増ぶりは確かにすごいが、日本の自殺率の高さにも改めて驚かされる)

ギリシャの低年金(しんぶん赤旗社会面:2015年7月4日)
 ギリシャ債務危機をめぐって、同国の年金給付の水準が高すぎることが財政を圧迫したかのような報道があります。しかし年金問題の専門家は、決して恵まれているわけではないことを明らかにしています。(中略)
 ギリシャの公的年金の赤字が膨らんだ原因について、(ニッセイ基礎研究所の)前田氏は二つの原因を挙げました。一つは社会保障制度の弱さです。ギリシャの民間企業では企業年金が発達せず、退職金も給与の1年程度です。健康保険や失業保険も十分整備されず、比較的若いウチに離職する人が多く、想起年金に依存する割合が高いという事情です。
 もう一つは欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)が貸した緊縮政策です。この政策が経済を落ち込ませ、年金財政を悪化させました。ギリシャの失業率は27%程度。若い世代ではもっと高く、賃金水準も低下しています。(後略)


 上記記事の元ネタはニッセイ基礎研究所の以下のレポートのようである。

何が問題か?叩かれるギリシャの年金制度~日本の年金制度より高い評価も!?~前田 俊之氏(ニッセイ基礎研究所金融研究部)

*ネットにあふれるルサンチマンが、ギリシャ叩きをして悦に入っている見苦しい現状があるけれど、この短いレポートは必読です。

 果たして、ギリシャ人は怠惰なのか。以上の経過を見ると、IMFやEUがギリシャに要求している緊縮政策は正しいのか、このまま続けて大丈夫なのか、といった疑念が浮かぶ。
 近代国家は何のためにあるのか。緊縮財政によって国民生活が破壊される現状があるなら、財政再建に何の意味があるのだろう。

 ギリシャは1970年代まで、長らく占領、内戦、軍事独裁と、ナチス侵略から冷戦構造下の時代、政情が安定しない時期が続いた。これは同じく70年代まで軍事独裁政権だったスペイン、ポルトガルも同様だ。この3国の経済基盤が脆弱なのは、そうした歴史が影響しているのかもしれない。
 今後も経過を追っていきたいと思う。


緊縮政策がどのような影響を与えるのかという点について、本書が参考になります。
タグ:ギリシャ IMF
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