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マイナンバー関連システムを無邪気に信頼していいものだろうか ~第42回医療情報学連合大会(JCMI42) [医療情報技師というお仕事]

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会場の札幌コンベンションセンター

 表題の学会大会へ2017年以来5年ぶりの参加。

 今回初日(実際は11月17日から開始しているが、開会式が18日だったので初日を18日とする)は1日いっぱい会場の札幌コンベンションセンターでの参加。MRIなどの画像・動画をAIで解析し、手動での調整を簡素化するなど、放射線技師や医師の業務支援をするシステムや、画像解析データを蓄積しAI解析でアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症のAIによる初期鑑別をするもの、またWebを使用した精神疾患のAI診断サービスなどがあった。
 久しぶりに参加したので私も質問をしてみたりする。

 午後はランチョンセミナー(マイクロソフト)に参加した後、「日本の医療に期待される今後の遠隔医療について」参加。お恥ずかしいながら遠隔ICUというものを知らなかったので、役に立ちました。

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ホテルでのリモート環境。10.5インチだが意外に快適

 2日目はホテルからリモートでの参加に切り替えた。
 リモートにしたのは、この会場、Ciscoのwebexを使っており、その感覚と運営状況を参考にしたかったのと、久しぶりに革靴-それもイタリアのマッケイ製法の-を履いて行ったら見事に足を痛めてしまったから。
*イタリアの靴ってなじむととてもいいんだけど、必ず一度は足を痛めるんだよなあ。
 閑話休題。

 で、2日目。北海道における医療介護の情報共有システムについて。名寄と函館の病院から連携システムの経験について解説。
 うむうむそうだよなと共感しつつ聞いていると、その中で地域医療連携との関係からマイナンバーカードと医療情報との連携に加えて、早く介護保険も連携させよという意見が見られた。学会長・大会長講演でもマイナポータルなどに好意的な視点があった。自民党の「医療DXシステムビジョン」なるものの紹介もあった。
 確かに一元化できれば本当に便利になるし、それは疑いないことだと思う。情報共有でアセスメント情報などは各人がいちいち全部患者・利用者に聞く必要がなくなるのなら。あれ聞く側も聞かれる側も手間なんだよね。でも、うーん。


 ん~、でもちょっと無邪気に過ぎるんじゃないかと思う。

私たちは医療情報を一元化していいような国に暮らしているのだろうか


 過日自死された近畿財務局の職員家族が起こした損害賠償訴訟で、家族が敗訴した。この事件の始まりは、近畿財務局の職員が公文書の書き換え・改ざんを指示され実行したことによる自責の念から来たことだった。本訴訟に先立つ国相手の訴訟は、国側が賠償額全額を認諾するという極めて例外的な行為によって、国が真相解明を拒否する異常事態のまま裁判が終わった。
 2013年からの建設工事受注動態統計に偽装があったことが昨年明らかになった。「アベノミクス(この言葉使いたくないんだよな~)偽装」とも言われた。2019年には毎月勤労統計にも不正があることが明らかになっている。
 私たちは、**公文書が改ざんされ****統計情報に不正-それも政府に都合の良い不正-がある**国で暮らしている。これは遠い過去のことではなく現在の政権が行っていたことだ(遠い過去にもやっていたことは言うまでもない)。そのような国で情報を、特にセンシティブな個人情報である医療・健康情報を一元化して取り扱われることへの危機感を、もう少し考えてもらえないだろうか。

 その辺については私も2008年の横浜大会くらいから2015年の沖縄大会まで、細々とここに記していたが。

個人情報のセキュリティを如何に高めようと~医療情報学連合大会にて(2015年のエントリ)
*今あらためて読んだら今回と同じようなことを書いていました。世の中、というか政権の姿勢が全く変わっていないということです

 まあ学会として懸念を表明するのは難しいにしても、例えば情報を取り扱う上での"国家への"規制事項(*)を提案する、情報漏洩等を考慮した医療情報システム構築の在り方(**)を提言するくらいは、やってもいいんじゃないかなとは思う。
*国が自由に情報を扱えない、勝手に使えば犯罪になることを改めて念押しする意味。
**フェイルセーフという意味です。念のため。

あと行政がらみでは、こんな事件も今年ありましたしね。
尼崎市「泥酔USB紛失事件」のてんまつ、こんなひどい報告書を読んだのは初めてだ(日経クロステック2022年12月12日)

 特に河野太郎が突然「現行の保険証を原則廃止する。保険証はマイナンバーカードに統一する」なんてぶち上げ、それ明らかに何も考えていない仕事やってる風を装うパフォーマンスだろ・・だった時点で、医療情報学会として「マイナンバーカードの現行での運用形態から見て拙速すぎる」とか「実際の運用局面を想定するに準備するべき課題がこれこれこんなにある」とか、医療者のことを考えてブレーキ役になるのも一つの選択肢だと思うのだが。
 しんぶん赤旗日曜版2022年11月27日号で経済ジャーナリスト荻原博子氏が示している通り、莫大な国費を投入しながらマイナンバーカードの普及が足踏みしているのは、国民の間に情報漏洩への懸念があるからというし、マイナ保険証の推進とそのシステムを活用した情報共有を推進したいのなら、その点の不安点を払しょくするような役割を学会が果たすのもありだとは思う。それは積極的には勧めないけど。

 そもそも2009年くらいの時点では医療情報とマイナンバーを直接結び付けることはしないはずだったのだが。まあ医療系dbのIDはハッシュ化したデータになっているのだろうが。・・マイナ保険証関係のデータってどうなってるんだっけ。

「医療情報技師」とはどんな存在で、何をしなければならないのか ~10年前からさほどの変化はないが

 2日目の16時からは、「医療情報技師の20年」として医療情報技師の制定から現在までの認定者数、当時と現在とでの医療情報技師に期待される役割の変化、この間の取り組みなどが報告された。第2部では全国にある医療情報技師の地区支部の活動についての紹介があった。
 医療情報技師の認定数は2003年から2022年までの20年間で25810人。実際私の肌感覚から2/3は更新をしていないだろうから、実数としては、2018年度以降は更新前だから全部足して、それ以前をざっくり1/3とすると12000人くらいか。数が少ないと言われている言語聴覚士(ST)が3万8千人だからSTの1/3か。そりゃ知名度低いだろうなあ。
 今調べたら受験者数はSTと医療情報技師って同じくらいなのね。合格率が全然違うから認定者数はこっちが少ないけどね。

 第2部は活動報告だけに終わってしまい、何か議論をするという状況ではなかった。でも報告の中で、「医療情報技師の知名度が低い」「診療報酬の要件に」との声があった。
 これも実のところ10年前とそんなに変化はない。これらは各所でずっと聞く話だが、正直なところ国家資格でもないのに診療報酬の要件になるのはなかなか難しいとは思う。じゃあ国家資格になるかというとそれもハードルがかなり高い。
 知名度も・・検索するとわかるが受験のための情報は多いけど、実際何をやっているのかは、一般の人にはよくわからないと思う。医療情報技師って情報発信している人が少なくて(*)、そのせいもあると思う。私が継続的(いや断続的か)にこうして書いていることで、それをみて医療情報技師を知ってくれた人は何人かいたけれど。
*Twitterで検索すると医療情報技師を名乗っているアカウントがそこそこあったけど、Twitterの特性上、医療情報技師アカウントから実際の業務を見るには..うーん、Tweetからは見えにくいですね。

 初日の遠隔医療セッションで「中小医療機関は情報担当が1,2名→専門家がいないのでセキュリティが低い・セキュリティが担保できない→だから繋がない」。北海道の医療連携セッションでは「ありとあらゆる情報にアクセスできる時代に、情報管理・倫理についての教育をどうするかが必要」「介護側に情報システムの担当者、アドバイザが全くいない」との意見もあった。
 大会長講演でも、医療機関でのサイバー脅威への感度は9割あるが、セキュリティ監査は57%が未実施とあった。医療情報技術者の必要性は20年前から変わらずあり、特に中小や介護系に人手が足りない。我々の出番は正にここにあるのだろうと思う。

医療情報技師として19年~私的な経過と感想

 この学会、2006年札幌大会から2017年大阪大会まで毎年参加していた。
 当時の私は中規模病院で一人で医療情報システムを管理していたこともあって、各医療現場での医療情報システム運用を学ぶべく参加していた。だいたい2010年代なかばくらいまではそのような発表も多く、自身の経験と合わせて大変興味深く発表を聞いていた。時々質問や意見交換もしていた。
 ただ私の仕事がいよいよ多忙になり、ゆとりもなくなりつつあったんだと思う。2013年神戸大会までは毎回大会の内容を記録していたが、2015年沖縄大会を最後に記載しなくなった。
 学会のセッションも時を経るごとに医療現場での運用経験より、データの利活用をどうするかとか、地域での各事業所(医療だけでなく介護系も)間のシステム連携をどうするかという話題が多くなった。それはそれで興味深く学ぶべきことも多く実際に参加もしていたのだが、当時勤務していた病院を退職した2018年以降は、大会に参加もしなくなっていた。

 今こうして仕事から離れていると、徐々に最新情報への渇望が強くなりこうして参加している次第。いや地域の医療情報技師会にはほとんど参加しているので、全く何もしなくなったわけではないけれど。
 初めて参加した2006年と同じ会場で、またあの時のような知的な刺激を受けられるかと思ったが、残念ながらそうでもなかった。まあそうだ。もう私は50代になり、それなりに経験も積んだから。いや、というより私の感度が鈍ってきたのもあるのだろう。
 2005‐6年当時は電子カルテの普及率も低く、100床以下の医療機関では5%以下だったのが現在は50%近い。すると医療情報システム自体がコモデティ化して実運用面ではあまり目新しいことがなく、遠隔診療や情報共有システムは非常に興味深いがマイナンバーとセットになりつつあるのもあってあまり気が乗らず、かといってデータ分析やAI活用などについては、研究機関でもない医療現場でそのようなことができるわけもなく(データ分析は以前の病院でやっていたが)、ちょっと遠い話ばかりになってしまっているな、というのが5年ぶりに参加した今回の感想。

 でも来年も時間が許せば出るつもりですが。

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