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福島第一原発20km圏内~震災の傷癒えぬ楢葉・広野・いわきへ [社会情勢]

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拡大して見てください 扉の掲示を

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宝鏡寺境内でマルハナバチを

 ちょっとした偶然で、原発震災の被災地への調査に行くことができた。
 とはいえ多摩地区からの日帰りで、現地での滞在時間は正味4時間くらい、となかなかの強行軍。
 常磐道を通り広野インターで降りる。南から原発警戒区域の楢葉町に入った。かつては立ち入りが制限されていた、福島第一原発から20km圏内。圏内では比較的放射能が低い地域のため「避難指示解除準備区域」となったところである。

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広野インター 常磐道は富岡まで開通しているが、放射能のためここで終点

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広野町から楢葉町へ向かう 行き交う車の中には防護服とマスクを着た人たちばかり

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検問場所 ここから先は基本的には入れない

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緑の草が茂っている。事故前なら今頃は黄金色の稲穂が実っていたはず

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同日 茨城と福島の県境付近にて 黄金色の稲穂が実る

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民家はあるが、人は誰も住んでいない


 福島第一原発20km圏内は、一部は立ち入りはできるものの、長期滞在ができない「避難指示解除準備区域」である。従って、民家はあるが、誰も住んでいない。水田もあるが当然耕作はされていない。あれから1年半が経過し、雑草が青々と茂っている。道行く車はほとんどが原発作業員。防護服や作業服を着てマスクをしている。そして警察と、軽トラのおっちゃんにたまに出会う。

 宝鏡寺で1972年から、長年地域で反原発運動をしている住職、早川篤雄さんのお話を聞く。この間の運動の歴史、それこそ公聴会での電力会社によるヤラセが問題になったけれど、1970年代にはそれとは比較にならないレベルのヤラセ(公聴会で住民数を上回る傍聴希望者がいたなど)があったことなどが語られる。

 外はそれなりに暑いのに、寺の中には爽やかな風が抜ける。一見全く自然豊かな田舎の光景である。
 実に静かな風景。しかしこの静寂は、人がいないからだ。そうだ、昔北海道の山中で散策したり山菜採りに行った時と同じ音。人間の生活音がないのだ。
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近くの枯葉を計測 特に吹き溜まりなどを選んではいないのだがこの数値

 ガイガーカウンターのRADEX1706を持参した。楢葉町に入ったあたりから、みるみる数値が上がる。バス内でも 0.7μSv/hくらい。こうして現地で計測してみると、都内ではあり得ない数値がやすやすと計測される。風が吹くとそれに伴って、数値が上下する。セシウムなどがエアロゾル化して舞っているのだろう。

 講演の間など短い時間は滞在ができる。しかし宿泊はできないとのこと。放射線量が高いのだ。

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お寺の中の池

 このお寺、事故前は雑草一つなく整備されていたそうだ。しかし今はあちこちに草が生えている。避難期間中に池の鯉は9匹中7匹が死に、戸外のトイレには桐が生えてしまったとのこと。


 お話の後、広野町に戻る。放射能は楢葉から広野に向かうほんの10分程度の行程で、0.7μSv/hくらいから0.2μSv/hまで急速に下がった。これには驚く。

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左は楢葉町のバス中で計測 右は同じく広野町のバス中にて

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広野町にある食堂・民宿の駐車場 地元の人が事故前にはこんなに駐車しているのを見たことがない、というほどに混雑している

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広野町の水田。楢葉と同じく雑草が生えているが、ここは作付け制限はされていない。田植えをしても誰が買うのか、という点からこのような状況であるとのこと

・・・・・

 ガイドをしてくれた、いわき市の医療生協の方の話を聞く。

 原発のことを話す。福島第一原発の立地自治体である双葉町の町長が、この度ようやく「町が誘致した原発が皆さんにご迷惑をおかけしたのなら申し訳ない」的な謝罪を言ったとのこと。
 彼は、そんなのわかり切っているじゃないかと、私たちが危険性を言って来たじゃないかと。そう指摘した。「けれど私たちは彼ら(原発推進派)に「原発は地震にも津波にも耐えた。大丈夫だったじゃないか」と言って欲しかった」と続けた。そのあと少し沈黙する。
 目頭を一瞬押さえたのを私は見逃さなかった。すぐあと、近くの状況を丁寧に説明し続けた。

 実際に被害をこうむっている、そしてその状況が如何に深刻かを、この時に感じた。

 原発を巡っては、様々な対立構造がある。今、私たちがこうむっているフクシマ原発災害への評価以外にも、そもそも建設時に賛成/反対の対立構造があり、できてからも補助金の動向で地域に対立を生み出す。
 そして事故が起こる。すると、放射能の評価をめぐって、避難する/しないという地域内の対立。そして地元産品を食べる/食べないという被災地と消費地の対立。

 けれどそれは偽りの対立構造でしかない。

 対立を持ち込んだのは、いうまでもなく国策として原子力を推進した戦後から現在に至るまでの歴代政権であり、それを忠実に実行に移した電力会社各社。偽りの対立軸を設定して、人民を分断する-そう、英国が植民地で取った統治機構によく似ているじゃないか。
 偽りの民族主義をあおって、植民地統治に利用した、そしてそれが90年代にルワンダ大虐殺を生む遠因となった、その統治機構に。

 こんな偽りの構造に振り回されてはならない。責任を取るべきは国と電力会社なのだから。

・・・・・

 広野から海岸線を通っていわき市の小名浜に向かう。延々と続く被災の跡。土台しか残っていない家。それが今でも続いている。
 今、1年半経って、道路はきちんと機能しているが、ガイドの方は言うには、地震の直後、道はがたがたであちこち隆起したり陥没したりで、通行できない状況だったとのこと。

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建物の土台だけが残っている 居住を制限されたところとそうでないところがあるとのことだ

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四倉漁港 津波で破損した漁船が積み上げられている

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あちらこちらで震災がれきが山積みになっていた


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一部立ち枯れている防潮林。この地域では防潮林が津波を防いだところも結構あったようだ。防潮林の奥にはこれもがれきを入れた袋が積み重なる

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アクアマリンふくしま

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小名浜漁港にて・・積乱雲とクルーザー

 帰り、小名浜漁港に寄る。アクアマリンふくしま-たしかサンマを展示している世界唯一の水族館だった-そして昨年11月に復旧した「いわき・らら・ミュウ」の市場で買い物を。

 けれどここで売られている魚介類は、地元小名浜の物ではない。あちこちから入荷しているのだ。小名浜は確かに設備は流された。氷を作る業者も復旧できていないようだ。ただ、地元の魚を売れないのは、何も設備だけの問題ではないようでもある。カツオを水揚げしても、地元では売れるが築地には安くて卸ろせない。そんな中で漁に出ても・・という事情があるようだ。

 冷蔵品は持って帰るのが難儀なので加工品を見る。じゃこやノリの佃煮のところをみる。じゃこの佃煮はちょっと甘い。試食して「甘いかな」と言うと、店のおばちゃんが「これは神奈川のだから、ちょっと味が違うんだ。こちらだともっと辛めに作るんだけど。売っているのにこんなこと言うのは何だけど、ちょっとね」なんて言う。
 ノリを買う。三重の物だそうだ。地元のはもっとノリの風味があるんだけど、とポロッと言う。

 そのふとした言葉に、地元のプライドを見る。地元の産品を売れない苦しさが、そこに見えているように感じる。

 また行こうと思う。今度はもう少し時間を取って。


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コメント 8

ayu15

再開には賛否あるどちらもなるほどですが・・
避難計画も不充分。
事故起きたときの保障も不確か(福島県での保障も確立してないし・・)
安全対策に発言権もないし・・。

この状態で
「安全です」といわれても誰が責任もてるんでしょう?
次の選挙で与党いれかわると反故にされる?

30キロ圏内に地元にいれてもらえない京都や滋賀の小都市があります。
明日は我が身かも・・。大飯で事故起きたら
こんなふうになるんだなあと思うと怖いです。

by ayu15 (2012-09-16 13:33) 

Mosel

今回の福島事故を見て、立地自治体は震え上がったことでしょう。
そして立地自治体にとどまらず、周辺自治体も同じように思ったことでしょう。

本当に絶望的なほどに、日本の原子力業界「原子力ムラ」は、官僚主義的に腐敗しきった無能集団であることが、白日の下になりました。
批判的意見を組織から排除し、内輪の論理に凝り固まって運営をしていると、こんなことになるんだという最悪の証明ができてしまいました。

しかしその犠牲はあまりにも大きい。警戒区域が解除された川内村や広野町には、避難した人の1割も帰還していないと報告されていました。
大飯で事故が起こったら、京都や滋賀も同様な結果になるのは目に見えています。それでも原発を進めるのか、ということです。
by Mosel (2012-09-18 06:59) 

ayu15

再コメントすみません。
こちらじゃなんとなく福井県(行政)は再開存続の声の方が大きいようです。30キロ県内だけど立地じゃない
自治体は不安の声が大きいようです。
蚊帳の外におかれるのに事故起きたらとてつもない巻き添えくうので。

京都府の30キロ圏内の自治体は避難計画もまだ十分じゃないところも。国の強力な協力がないと作成できないそうです。自治体ごとほかの自治体に避難しないといけないので。

計画より先に再開されてしまったんです。
知事らが30キロ圏内の声も聞いてとか対策してと訴えたのに地元じゃないと・・・。
by ayu15 (2012-09-21 09:36) 

Mosel

ayuさん。
玄海原発の再稼働騒ぎも、結局は地元自治体がこっそり稼働を推進していたことが明らかになったし、なんというか、原発とともに自治体運営をする仕組みができあがっているので、彼らが再開存続を言うのは必然なのでしょう。

原発立地が麻薬中毒にたとえられるのは、こんなところからくるのでしょうね。

でもこの度の福島事故で、原発の「地元」というのは、単に原発の敷地のある自治体だけではないということが明確になりました。そんなの昔から反対している人には自明のことなんですが。

原発に敷地が接していない近隣自治体にとってみれば、本当に不安の大きいことでしょうね。
とにかくあちこちで反対運動をすすめて、原発拒否を世論として確立していくしかないでしょうね。
by Mosel (2012-09-22 08:56) 

ponnta1351

お久しぶりです。
福島にいらしたんですね。 ニュースなどで見るのと大違いで惨状の酷さに驚くそうですね。
立派なお宅に住めないなって・・・。


by ponnta1351 (2012-09-22 20:36) 

Mosel

ponntaさん、こちらこそお久しぶりです。

大量の震災がれきや土台だけの家、地元産が水揚げされない港、常磐道は未だにあちこち工事中です。
そして原発周辺の、一見普通そうに見えて、雑草が高く生い茂る水田。道行く人は原発関係者ばかりという、日常に似ていながらどこか違うという風景は、さながらSF映画の様でした。

復興の遅れが原発にあることは間違いない状況でした。原発事故はこれほどまでに甚大な被害を及ぼすのです。それがよくわかりました。
by Mosel (2012-09-24 07:01) 

cheese999

広野へ行かれていたのですね。
いわき(小名浜)出身ですが、広野まで行ったことがありません。
ハチさんは、原発事故が発生したことを知らないですよね。。
(^_0)ノ
by cheese999 (2012-09-26 22:46) 

Mosel

私も福島の海側に行ったのはこれが初めて。

バスで行ったのですが、広野町までは結構時間がかかりました。
途中の常磐道はまだあちこち工事中です。

もっと時間を取って行くことができればと思いましたよ。
by Mosel (2012-09-27 06:56) 

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