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福島程度の放射能汚染は安全なんだそうです~2月4日:福島の医療再生と情報連携シンポジウムにて [社会情勢]

 いや「安全」という言葉は使っていません。一部演者は福島原発事故当初「安全」を言いまくってかなり反発をくらったためか、その辺慎重になっていて、「統計上有意差が見られない」レベルというような言い方をしていましたが。この間の放射能汚染に関わる様々な疫学的調査に基づいて、有意差が見られたのはチェルノブイリでの小児甲状腺がんの増加、および旧ソ連のチェリャビンスク核工場下流のテチャ川住人のみ。

 このシンポジウムは演者は田中博(東京医科歯科大学教授 元医療情報学会会長)、長谷川有史(福島県立医科大被曝医療班)、丹羽太貫(京都大学教授 放医研)、山下俊一(福島県立医科大学副理事長)。パネルディスカッションでは反町理(モデレータ フジテレビ政治部編集委員)、田中博、竹之下誠一(福島県立医科大副理事長)、菅野典雄(飯舘村村長)、下村満子(元朝日ジャーナル編集長)の各氏。

 講演資料にはレジュメ等もなく、私のメモと記憶のみで再現するので、細かな表現などの正確性については差し引いてみていただきたいが・・。

 放射線防護学が専門の丹羽大貫氏(京都大学)は、広島・長崎での発がん率では、100mGy(100mSvとこの場合同意)以下の被曝では有意差がない。(深刻な放射能汚染に見舞われた)テチャ川流域住民はがんの増加が見られるが、(自然放射線量が高い)インド、ケララ州住民のがんは有意差なし。
また放射性セシウムに汚染されたトナカイ肉(それこそ数万bq/kgくらい)を食べていた北欧サーミ人のがん発症率にも有意差は見られなかったとのこと。

 福島県立医科大で放射線アドバイザーをしていた山下俊一氏は、そもそもチェルノブイリ・広島・長崎と今時の福島・・汚染された食物を食べていた前者とそうではない後者・・は違う、というところから説明が始まり、チェルノブイリではがん発生率に有意差はなく、ただ一つ、汚染された牛乳を飲んでいた子ども達の甲状腺がんが増加したことが確認されただけと。
 がんの原因は様々あるけれども、放射線の影響はそのうち2%であり、喫煙などよりもはるかに影響は少なく恐れることはない。これから福島県民の事故当初の行動調査を行い、被曝量を確定し、長期にわたる健康調査を実施する旨の話があった。

 知っている情報も多かったが、なるほどと思いつつ、話を聴く。そして何かが引っかかる。なんだろう。

がんと白血病だけで安全を語れるか~他の疾病は原発震災と関係ないとされないか

 昨年5月、写真家の樋口健一さんの講演に行った旨のエントリを書いた折、彼の著書を紹介した。その本には沢山の人が「原発労働が原因じゃないか」と思いつつ、労災認定まで行けなかったケースがたくさん書かれていた。
そして苦労してようやく労災認定されたケースが10例あることを紹介した。その病名は、がん、白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の4種のみだと。

 この福島事故後、新聞に99年に発生したJCO臨界事故の被害者インタビューが掲載された。ひどい倦怠感のため、家業を辞めなければならなかったこと。被ばく線量が数mSvであったために、事故の被害者と認定されなかったことが書かれていた。
 原爆投下直後から被爆者の治療を続けてきた肥田俊太郎先生のお話をきく機会もあった。診察室でへたり込んで動けなくなってしまう患者。「怠け病」「原爆ブラブラ病」等と言われ、差別と蔑視の目で見られた被害者。
 長年続いた法廷闘争の末、ようやく認定が拡大された原爆症。この原爆症認定には、以下の病気が対象となっている。

がん、白血病、副甲状線機能亢進症、心筋梗塞、肝硬変、白内障

 丹羽氏や山下氏の調査内容から、彼らが何を考えているのかが分かる。彼らは「(急性傷害を伴うようなものを除いた)放射線による疾病は、がんか白血病しかない」と考えているのだろう。ガンマ線やベータ線などの電磁波がDNAにもたらす影響を評価し、それに基づいて疾病を抽出。その病気の数をカウントする。
 だからそれ以外の病気については調査をしない。なんだかよくわからないけれど、苦しんでいる人がいることは知っているかもしれない。しかしそれは「放射能が原因じゃない」と本気で考えている。

 丹羽氏は原爆症認定訴訟の国側参考人として、認定を求める原告に、それは放射線障害によるものではないと言いつづけている人物でもある。そして原爆症認定訴訟は国側が29の訴訟で敗訴した。しかし彼らは「(原爆症の認定は)科学的知見に基づくものではなく政治的判断でつくられ、被爆者に対する援護は極めて優遇したもの」と認識しているようだ。(被団協のサイトから引用)

 さて、チェルノブイリに関しては、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)の調査では、白血病発症の有意な上昇が観測されているし、ECRRにもそういった調査報告がある。スウェーデンの放射能汚染地区でも、白血病の優位な上昇が見られたという報告もあるようだ。ここで山下氏とこれら調査結果の是非を論じる能力は私にはないので詳しくは書かない。
 イタイイタイ病カドミウム原因説を否定して国際シンポで反論不能になったり、チェルノブイリ事故後の91年調査で「放射能汚染にともなう健康影響は一切認められない」などとした放影研の重松逸造氏。彼と弟子である山下氏との関係をもって、原発震災での彼の態度をあれこれ言う人もいるが、私は、とりあえずその点は評価しないでおく。

・・・・・

 いろいろ書いた。けれど、住民に対する結論は、中盤にあげた肥田先生と、演者たちのそれは、実は同じなのだ。それはつまり、現地にとどまる/とどまらざるを得ない人たちに対して、どうするかということ。
 だって避難しようたって、経済弱者や避難先がない人は避難できないし、つまり社会的弱者は避難できずとどまらざるを得ない。国から支援があるわけじゃないそんな人たちに、じゃあ何ができるか、を問うていたのが肥田先生。
 今回程度の放射能被曝で病気になるような統計調査もないし、大して心配ないからとどまっても問題ないよ、と言うのが今回のシンポでの演者たち。そして各種の慢性疾患も含めて、福島県民の総合的な健康管理をしますよ。
 そしてそれ自身が日本で初めての大規模なEHR(Electronic Health Record:医療健康データベース)となりますよ、と。

 福島県民の健康管理について、反原発派の一部から「福島県民をモルモットにするな」という声が聞こえる。それを意識した発言もあった。
 きちんと健康管理して、疾患全体をきちんと診ていく。そして正しく統計調査を実施する。原発事故(それは放射能の影響のみに限らない)の影響をきちんと調査する。関連すると思われる疾病があれば、きちんと補償する。それは私が当初から思っていることでもある。

ジャーナリズムとは何なんだろう

 2部のパネルディスカッションの内容は、一言で言うとこれはひどいものだった。
 録音していたわけでもないし、言葉が一人歩きしてもまずいので細かなことは書かないけれど・・今では「安全だ」というと「御用学者」扱いされるだの、放射能は危険だと書いて、ずいぶんもうけている人がいるだのと、グチもずいぶん出た。私のすぐそばに座っていた丹羽教授はそんな意見に「うんうん」と激しくうなずいている。
 しかしちょっと思い出して欲しい。「反原発」でなくとも原発の危険性を少しでも口にすると「反原発派だ」「共産党だ」と攻撃し、原発推進政策に与しなかった安斉教授や今中、小出氏らを激しく排除し監視までして、原子力村で固まって生活の糧を得ていたのは誰なのか。そのうち何人がこの事故後に改心したのか。
 「ジャーナリスト」のはずの人もいたのに、そんなグチを制止するどころか積極的に加担している。「朝ジャ」の元編集長が入るから、そんなにひどいことにはならないと思っていたけれど、この下村という人、いきなり自己紹介で自分の主催している「塾」とやらに「JALの経営再建を果たした稲森会長を招いて」とか言っていた。「ジャーナリスト」ならJAL不当解雇裁判が継続していること知ってるよなあ、あれれ、大丈夫かこの人・・と思って、帰ってからWikiを見たら評論家の立花隆がこの人を厳しく批判していたことが書かれていた。私はあまり立花氏を好ましく思っていないけれど、今回のシンポを顧みるに、その批判内容は概ね妥当と言えるんじゃないかと思う。

 とはいえいろいろと勉強になりました。そう、いろいろな意味で。

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コメント 2

ayu15

なんかもやもやしますね。

大学で食品の放射能汚染を考えるシンポジュウムが開かれました時のを書いてます。
「科学的に考える?? http://life-ayu.blog.so-net.ne.jp/2011-11-10

この時も、もやもやしました。
科学的に考えたらそんなに心配しなくていいと言いたいような?「心配する人は科学的情報にかけていて感情論です。」といいたげな?・



そう思ってたらこんなのありました。これはもやもやあまりしません。
「これから風評被害の話をしよう http://life-ayu.blog.so-net.ne.jp/2012-01-28

by ayu15 (2012-02-12 22:02) 

Mosel

Ayuさん、こんにちは。
私も何かもやもやしました。
一つには「この人たちの言っている調査は本当に真実なのか」ということ。
原発を推進する側の人々が、これまで様々な隠蔽を続けてきたことが、その背景にあるように思います。だからこのシンポジウムのあと、いろいろと考え調べていました。私自身は非常に複雑な感情があります。

この原発震災、行く末をしっかりと監視する必要があろうかと思います。
by Mosel (2012-02-13 20:13) 

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