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盲目的に信じろと?~未曾有の原発震災に思うこと [社会情勢]

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「四国各地で閉め出された四国電力は 伊方でひそかに地主を買収 ボーリング調査の許可印と偽って契約書に押印させた 夫の留守に押印した妻は事件が明るみに出るや自殺においやられた・・」樋口健二写真集「原発」(1979年)から 以下引用写真は同写真集から

 先日、多発性骨髄腫で亡くなった仲間の葬儀があった。5年以上にわたる闘病生活の末のこと。まだ、若かった。
 闘病中にも何度か職場復帰して、時に私と同じ職場で働いた。家族が使っているパソコンが壊れたり、子どものパソコンが必要になったりすると、私がその相談を受けて修理したり購入の手はずをとったりしたこともあった。
 最近入院した折に、職場や仲間の写真をアルバムにしようという話になって、ならばとデジタルフォトフレームを送ろうと思い、職場の写真を撮りまくった。けれどそのフォトフレームは間に合わなかった。

 さて、この日まで彼女の病名を-何となく感じてはいたが-知ることのなかった私は、葬儀の場で病名を聞きふと、思うことがあった。

 多発性骨髄腫は、数少ない原発労働者の労災認定がおりる病気3種のうちのひとつなのだ。一番多いのが「白血病」続いて「悪性リンパ腫」最後に「多発性骨髄腫」。長らく白血病以外は労災認定されなかったようだが、しかしこの3種合わせても労災認定件数はわずか10件。
 東電を相手取って起こされた損害賠償訴訟にいたっては、ただの一件も労働者が勝利したものはない。

福島第一原発の放射能もれデータは信用に足るものか

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福島原発で被曝による死亡と思われる作業員3名

 事故から約2ヶ月が経過し、最初期の非常に危険な状態は回避された(ように見える)とはいえ、大量の汚染水がもれ続けている状況は今でも続き、続々と放射能汚染の実態が明らかになる現状。そして何かあるたび、相変わらず「直ちに健康に影響を及ぼすものではない」と言い続ける国、東京電力、そして御用学者。

 ただ・・。

 今回の事故、出てくるデータのソースが、すべて東電や保安院など原発推進側からだけというのが気になる。彼ら、遠目からの映像で明らかに原発の建物が爆発しているのに「爆発的事象」-つまり「爆発」ではなく「何かが爆発したような現象を見ましたよ(爆発「事故」とは言い切れないんじゃない?)」的な物言いをして、可能な限り事を小さく見せようとする人たちだ。
 そしてこの間検査結果や点検内容を平気で改ざんしてきた東京電力だ。それらのデータは信用に足るものなのだろうか。
・・ポケット線量計のデータを公開している人たちは何人かいるけれど、当然のことながらそれらの人たちは原発からかなり離れたところでの計測値。

 4月24日、突如として東電が、原発敷地内の放射線量を公表した。最大で900mSv/hのがれきがあったとのこと。へぇそうか、と思い翌日の週刊朝日の新聞広告を見る。「東電が公表しない 衝撃の「放射線量〈詳細〉データ」福島第一原発3号機周辺で、なんと900ミリシーベルト!」ああ、そうか。リークを知った東電が直前になって公表したってことか・・・。

 ポケット線量計を持って現地入りしたジャーナリスト(広河隆一さんら)が線量計のメーターが振り切れたなんて報告しているのを見ると、実際のところはどうなんだろう、と思ってしまう。


「安心」「影響はない」の意味は ~福島原発事故での健康被害は東京電力も国も補償しないということでは?

 93年、原発作業員の、当時29歳の青年が慢性骨髄性白血病で死去した。総被爆量は50mSvとみられる。いや、もっと正確に言えば、「記録上は50mSv」だったのだろう。
参考:山崎淑子の「生き抜く」ジャーナル

 労災認定はされた。国は労災認定の狭い基準のなかでも、病気の要因は放射線障害と認めたということになる。

 しかし東京電力を相手取った損害賠償は認められなかった・・・。


 私の手元に古い写真集がある。1979年に刊行された樋口健二氏の写真集「原発」。序文にこうある。

「ここに登場していただいた原発被曝者は原発で働き病気になった人たちばかりである。原発被曝に起因する因果関係がいまだ立証されていないばかりか、労災すら認められていない。原発が運転開始されて16年にもなるが、日本では被曝者ゼロという安全神話がまかり通っている。だが、被曝者や被曝総量は原発の増加や事故、故障の頻発と長期化する定期検査などで年々、増加している。それでも障害者がいないというのは不思議という他あるまい。」

 この本にはたくさんの労働者が健康被害を受け苦しんでいることが書かれている。
 70年代に社民連-そう、かつて菅直人も所属していた政党だ-の楢崎弥之助が国会で、原発労働者の健康被害について、政府を問いただしていた。
 あのときの労働者の被曝量は・・公式には-許容限度内だったはずだ。
 なら、なぜ彼らは病気で苦しんでいるのだ。
 この本に出てくる人たちは、ただの一人も労災認定されていない。もちろん損害賠償もなかった。

 安全を連呼する、国やその他原発推進する側の、「低い被曝量では健康被害は起こらない」とは、一体何に対して向けられているのだろう。

 私はこう考える。今事故で連発される「安全」とは、何らかの健康被害があったときの国や大企業の免罪符ではないかと。
 つまり裁判になったときの「裁判官が判断する目安」ではないかと思うのだ。だって健康を害した我々庶民が、病気と放射能との関連を証明できるような、医学的データを集めるなんて不可能だ。じゃあ訴訟になった場合、裁判官は何を基準に判断するのか。これら御用学者が主張している「データ」によって判断するしかない。というよりそれ以外の判断を下したらその根拠を問われる。そんなことが官僚機構の一部である裁判官にできるだろうか。ムリだ。

 白血病になろうが、リンパ腫になろうが、甲状腺がんになろうが、国や電力会社は統計を持ち出してこう言うだろう。「残念ですが推定被曝量から見て、福島事故とあなたの病気との関連性は医学的に証明されておりません」と。その時になって裁判を起こしても結果は絶望的だ。


一体何をもって「安全」を宣言しているのだろう

 発売日に購入した岩波の「世界」5月号を今頃ゆっくりと読んでいる。

 この充実した内容の雑誌で、「まさに「原発震災」だ」として地震学者の石橋克彦神戸大名誉教授が執筆している。この論文で興味深いのは、彼が97年10月の岩波「科学」に執筆し、地震学の立場から今時の事態を想定した論文に対する「原発村」の偏執狂的な批判に関してである。
 今いろいろな意味で時の人となった感のある斑目春樹氏(原子力安全委員長)は、「石橋氏は原子力学会では聞いたことがない人である」と批判。小佐古敏荘氏(東大大学院・内閣府参与:最近抗議の辞任をして話題になっている人だが)「石橋論文は保険物理学会、放射線影響学会、原子力学会で取り上げられたことはない」と指摘している。

 仮にも分野が違うとはいえ、アカデミズムの分野にいる人に対し、このような権威主義的な批判、というか印象操作をする人々の意見を、私は素直に聞き入れることはできない。

 今まで原発は絶対安全だ、と言い続けてきた人が、いけしゃあしゃあと今震災の「想定外」を連発し、この程度の放射線量なら「直ちに健康被害を与えることはない」と言い続ける。今時の災害を想定して警鐘を鳴らしていた人がたくさんいたにもかかわらず、そうした人々に冷笑を浴びせ続け、「原発神話」にどっぷりつかり何の対策もしてこなかった人たちが「安全」を連呼するたびに、私は怒りを覚えるとともに不安になるのである。

 そんな中、政府は子どもに対する年間被ばく線許容量を20mSvとした。参考までに、原発作業員の年間被ばく線量は50mSvである(現在福島では250mSvに引き上げ)。
 私は、それを、信用しない。


どうすればいいのか-住民の長期的健康調査と補償しかない

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東北電力浪江原発に反対する住民 浪江原発は阻止できたが、今福島原発人災で避難している人のなかには、ここ浪江町住民も多数いる

 短期的にやるべきは福島第一原発の事態収拾、第二原発を含めた廃炉と被災住民への補償だろう。そして震災当初2~6Svもの被曝をしたと伝えられた原発労働者、そして100mSvを超える被曝をした労働者の厳重な健康管理。

 長期的には、今後数十年間にわたっての、極めて大規模な住民の健康調査と医療保障。
 少なくとも原発から半径2~300kmを対象として、本当に今回の災害で健康被害がないのかどうか。あった場合はどのような補償をするのか。大規模な前向き調査をすすめ、フクシマ以前と以後とで差があるのかないのか、明らかにしなければならない。そうだ、私たちが「実験動物」になるということだ。

 長い長い対策が必要になるだろう。原発はひとたび大事故が起きれば、これほどまでに深刻な災害をもたらすと言うことだ。

 こんな割に合わない施設を、今後ともすすめていくのは愚の骨頂だ。こうして事故が起ってなお、原発を推進したい人がいるとしたら、まずあなたがこの惨状を解決してから主張するのが良かろう。そう思う。

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shira

 ご訪問ありがとうございました。
by shira (2011-05-04 11:37) 

ガンガンガン速

お邪魔いたします。
利権が絡んで隠されていく事実。
疑い、自分で確かめなければならないですね。
by ガンガンガン速 (2011-05-04 14:07) 

Mosel

shiraさん。こちらこそご訪問ありがとうございました。

ガンガンガン速さん、原発って利権がいっぱいです。電気料金決定も、大型設備投資をすればするほど電気料金に添加できる仕組みなので、それもあって、大型開発が優先されるのでしょう。
そんな点を見ると、電力会社というのはバブル期の保守系自治体の構造に似通ったものがあるように感じます。
by Mosel (2011-05-05 07:45) 

ponnta1351

長い文章ですが拝読いたしました。
連日の原発事故のニュース、腹立たしく見て居ます。
なんの疑いもなく、便利さに慣れて使い放題だった電気。今回の件で利権まみれの、裏の実態を垣間見るたびに恐ろしさまで感じます。
この先、書かれているような病気が発症しないと言う保証は有りませんよね。本当に末恐ろしいです。
その上、電気料金の値上げを検討している。追いやられて避難している人や取り残された家畜を思うと居たたまれません。

余談ですが原発が原因では有りませんが、実妹はリンパ腫で55歳の若さで亡くなって、来年13回忌を迎えます。
by ponnta1351 (2011-05-05 15:45) 

Mosel

本日、浪江町の避難所に東電の清水社長が現れました。浪江の人の憤怒が今回のエントリで取り上げた本からよくわかります。浪江は原発に反対していたからこそ、東電や国からのカネは双葉などとは違って一切来ていなかったようです。それなのに事故時は全員が避難しなければならない。
住人の切ない思いが感じられるようで、見ていて苦しいです。

そして東電は政財界とつるんで事故の免責を狙おうと画策している。そして補償費用との関係で電気代を値上げだと。結局利用者に補償金を払わせようという魂胆です。
こんな組織は粉砕しなければなりません。日本的官僚社会の一番悪い面が出てしまっている、と思います。

偶然ですが、冒頭取り上げた職場の仲間は55歳です。長い闘病生活でしたが、そのようなことをみじんも感じさせないような、いつも気丈にふるまっていた方でした。いまだに本当のこととは思えないような気持ちでおります。
by Mosel (2011-05-05 21:48) 

ayu15

こわぃですね。
by ayu15 (2011-05-09 13:03) 

Mosel

こんにちは。私はこわいというか、気味が悪いです。原発利権の中で肥え太ってきた電力会社や保守系政治家の一方で、これから健康不安におびえて暮らさなければならないたくさんの人たち。どうしたらよいのか、という感じです。
by Mosel (2011-05-10 06:21) 

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