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BAUHAUS experience,dessau [雑想]

 東京芸大美術館で、7月21日までバウハウス・デッサウ展が開催されている。ACTUSの店頭に、何気にチラシがおいてあったので見てみると、門外不出の珍しいものも展示されているとのこと。ちょっと気になって行ってみることにした。

bau1.jpg 美術館では、地下2階と3階の2フロアでその企画展を行っており、はじめは地下2階から観覧する。バウハウスの歴史、関連する同時代の芸術運動から、上階では各授業での習作、工芸、家具、建築、絵画、舞踊など多面的なバウハウスの活動が、数多く展示されていた。
 Bauhaus Archiv等から、非常に多くのものが展示されている。多分マイスターの中では一番有名なミース・ファン・デル・ローエのカンチレバー式イスのプロトタイプ、マイスターハウスの中に収納されていたブロイヤーの家具、バウハウス校舎を筆頭とする建築物のミニチュア、生徒-マックス・ビルなど一部は芸術家・デザイナーとしても有名になった-が作成した、たくさんの習作。復元された、とってもシンプルな校長室にはグロピウス自身がデザインした一人がけソファ(復刻)も置かれている。
 宇都宮美術館からの出品も多かった。この美術館の収蔵品は雑誌で紹介されることが多く、よく見かける。

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マリアンヌ・ブラントの灰皿。イタリアALESSIによる復刻。同じブラントの別デザインの灰皿が展示されていた


 この展示会を見て、不思議なことに「懐かしい」と思った。なぜだろう。確かに私がバウハウスのことを知って、ずいぶん多くの資料を買いあさったのはもう20年近くも前のこと。
・・当時はインターネットもなく、美大生でもない私は資料集めにはずいぶん苦労した。
 それも理由の一つだろうが、展示されている当時のランプやイスなどの家具が、なんだか昔使ったことのあるような、微妙なノスタルジアを持っているからかもしれない。天板に穿たれたねじ穴に、金属のプレートが鋲止めされているイス。鈍い光を放つ、真鍮製の古びた灰皿。
・・今のイスは樹脂やファブリックでのっぺりきれい。灰皿も禁煙嗜好ですっかり少なくなった。
 そしてたくさんの習作とノートは、昔学校で学んだ記憶をも、ちょっと思い出させる。

 やっぱりなんだか懐かしい。

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マルセル・ブロイヤーのC4スツール。Tecta社による復刻。スツールだが背が高くフラットで、小テーブルとしても使える優れもの


 ちょっと物足りないと思った点。それは、当時の社会情勢や政治状況との関わりについて、年表以外、全く触れられていなかったこと。工業化、合理性の追求、既存芸術の打破、それらが必然的に求める社会変革。各地でわき起こったアヴァンギャルドは、何を求めていたのか。その中の一つであるバウハウスは、それらと無縁な孤高の存在であるはずがない。
 初代校長のグロピウスは、当時ドイツ芸術労働評議会の代表でもあったし、2代目校長のマイヤーはその社会主義的思想によってナチスが支配したデッサウ市議会に追放されている。後の思想的転回もふまえ、単純に並列できないことは重々承知の上、それでもなお、バウハウスが目指していた、いささかユートピア的な社会主義への傾倒とそれを土台にした各種の実践は、当時社会の各分野で共通していたことではなかったか。
 確かにアヴァンギャルドの中には、政治との関わりを拒否したドゥースブルフのような人もいたけれども、ロシア・アヴァンギャルドと初期ロシア革命との密接なつながりを代表として、バウハウス自身にも左翼学生グループが存在し、一定の勢力を持っていたことは、そんなに知られていないことではない。そしてミース・ファン・デル・ローエの時代に、学生の政治活動を抑圧し生き残りを図るも、結局ナチスに弾圧され、閉校に追い込まれたことも。
 バウハウスに限らず芸術・文化活動というのは、その社会との関係性を無視すると、なぜ彼らが生まれたのか、なぜそうするのか、という根本の部分についての理解が、かえって難しくなる、あまつさえ曲解してしまうおそれすらある、と私は思うのだ。
 もっともロシア・アヴァンギャルドでさえ、その革命とのつながりを否定するような著作もでているのだが。

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会場で売られていたペン。芯は2mm。ステッドラー製。


 あれほど情報が少なかったバウハウス。今ではTASCHENから決定版的な本も訳出されたし、マイスター/デザイナーに絞った本も出るようになった。インターネットで簡単に膨大な情報も集められる。何より本が安価になる傾向があるのがうれしい。

 そんなわけで、すっかり有名になって、モノ系雑誌やファッション誌などでも軽い特集が組まれる。それはずいぶんといいことだと思う。たくさんのリプロダクト品が、あちこちで安く買えるようにもなった。それもまたありがたい。そんな些細なことも、バウハウスの目指す方向性と一致しているようにも思う。

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