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くすのきの郷事件に思うこと-介護保険に責任はないのか [社会情勢]

 私は以前情報セキュリティの勉強をしていて、その内容は、運用に関する面が主体だった。そのころの知識は、マネジメントの学習と相まって、今の仕事でも大いに役立っている。

 もっとも注意しなければならないセキュリティ上の脅威は、内部の人間がやらかす「失敗」や「犯罪」である。だから組織は内規を設定して、それを社員に守らせなければならない。
 けれどその内規というものは往々にして守られないことがある。そうした際に組織がどう対応するかというと、なぜ内規が守られなかったのかを分析して、組織がある意味内省的に対策するのがよいとされている。例えば・・・。

・内規に運用上無理な点はなかったか-現場の業務を無視した内容はなかったか
・会社の「本気度」が伝わっていたか-全社的な取り組みとしてすすめられていたか
・セキュリティに関する研修・学習は日常不断に取り組まれていたか、
・セキュリティポリシーは社員にあまねく伝えられていたか・・等々

 セキュリティに限らず、組織を運営する上で、方針やら通達やらを出すことはよくあるが、それを社員が身につけ実践させるために、いろいろな手段を講じなければならないことはいうまでもない。文書一枚配布して「はいおしまい」では、組織の本気度も伝わらないし、社員もやる気を出さないことは自明のことだ。
 内規を守らなかったことに対して、厳罰主義で挑むのも一つの方法だが、それは最悪の対応とされている。社員の納得がないまま厳罰を科せば、それはモチベーションの急激な低下をもたらすためだ。

さて

 以前介護保険の監査に関して、その重箱の隅をつつくがごとき内容に、各地の事業所が辟易し憤怒していることは以前も書いたけれど、やや前に公立の特養初の資格取り消しを受けた「くすのきの郷」の事件に関して、岩波の「世界」が短い記事を載せていた。

「介護保険制度に「くすのきの郷」が起こした"抵抗"」沢見涼子
 今年2月、東京都文京区立の特別養護老人ホーム (特養)「くすのきの郷」・・を運営していた社会福祉法人「同胞互助会」は介護保険事業者指定を取り消され、さらに同施設が区立の施設であったため、区が指定取り消し・連座制の適用を受けるという異例の事態となった。
 手厚い介護で評価の高かった「くすのきの郷」が、なぜ「不正」をしてしまったのか。取材から見えてきたのは、介護保険制度そのものの問題であり、その中で少しでも利用者本位のサービスを心がけようとする介護現場の苦悩であった。・・
(たぶんすぐリンク切れになると思うので、リード文を一部引用しました。ご容赦)

 この記事、特養という制度を自ら作ってきた同胞互助会の苦悩とプライド、そして介護保険事業所の困難が丁寧に記載されており、かつ指定取消処分に打って出た東京都の意見も記載されている。
 日本版SOX法が導入されそうだと言うことで、ビジネスの世界では最近「コンプライアンス」がうるさく言われるようになってきた。そんな流れもあってか上掲記事の「法があるのだから法に従え」という東京都の姿勢は、机上論としてはまっとうに見える。

 ではその「法令遵守」の元になる法令が、上記の組織運営の観点から、どのように運用されているかをみてみたい。

・・・・・

 介護保険の法改正による制度変更は、06年の4月から始まった(くすのきの郷や私たちの病院など施設系については05年10月から前倒し施行)。ここではその内容の批判は行わないが、その周知方法たるや惨々たるものだ。

 法律の改正はもちろんのこと、厚労省の「通達」や「事務連絡」なるものが頻繁かつ膨大に出され、それを読み切らないと運用ができない。その文章はいわゆる「お役所言葉」で難解極まりない。各項目に対する運用詳細が、法律の中では明示されておらず、介護保険課などに質問しても返答は1~2ヶ月後(今運用されている制度の返答に1ヶ月もかかったら意味がなかろう!)
 しかも上記通達は制度実施の直前に出ることがほとんど。制度実施後に出ることもしばしば(e.g.4月度の請求締め切りの前日に新たな通達が出る、4月から運用している制度の解釈が6月になって出るなど。これらの解釈にあわせて業務を変更しなければならない)。

 介護保険に限らず医療保険にも似たようなところがあるが、こんな状況下で、現場は医療や介護を進めなければならないのである。

つまり介護保険は、まず基本であるところの制度周知に大きな問題を抱えており(ちょっと前のPSE法の、何が問題となったのかは皆さんも覚えておいででしょう)、現場の業務を無視した度重なる「通達」の乱発は、運用上無理な体制を強い、そんなお粗末極まりない運営では、介護保険に対する国の「本気度」だって疑わしくなってしまう。
 そして今回の「指定取消し」という厳罰主義が他の事業所にどのような影響を与えるか。これは言わずもがなというものだろう。

 もう一点ここで法律を厳格に、というか機械的に運用するとどうなるか、私たちは数多ある法律の一切に違反しないで生活できるのか、という点にわかりやすい解釈をしていただいた方がいた。

反戦な家づくり-1円のお話

 一昨年に大騒ぎになり、いまだ混乱が続いている「個人情報保護法」にまつわる喧噪を覚えていらっしゃる方も多いだろう。あれだって厳格な適用を行えば、業務や日常生活にさえ支障を来すことであるのは、多くの方がすでに経験したとおり。

 あいまいな法律を作り、「政令」や「通達」、「解釈」などで実質的に法律の中身を規定するやり方は、結局のところそれらを決定し運用する官僚等に、法の支配権を与えることになる。民主主義の観点からそれらが問題であることは言うまでもない。

 医療保険を担当している社会保険事務局では、もう歴史が長いからか、そんな状況に現場が振り回されていることを知っており、柔軟な解釈をしてくれる場合もあるのだが、現場を知らない・知ろうともしない・(サービス事業所が)なくなってもかまわない、と平然と考える介護保険課の事務屋にとっては、そんなことなどどうでもいいことのようだ。
 粗雑な法体系を振りかざして、その条文一つ一つを金科玉条として順守しろと迫る姿勢に、あの石原「豪遊」都知事の強権的手法が重なる。

・・・・・

 多くの反響を呼んだベストライフのコマーシャル(バナートップの「放映中のテレビCMについて」をクリックするとみられます)や、「新たなワーキングプア」などと呼ばれる状況から見てもわかるとおり、この介護業界は、今は若い人も多いからモチベーションの維持ができているように見えるが、このままでは支える側が早晩崩壊するのは目に見えている。

 支えられる側からみても、06年改正による「介護予防」概念に伴って制定された「要支援1・2」については、ケアプランを立てるケアマネがいない、そもそもケアマネによる地域の掘り起こしができなくなって、要支援・要介護となるべき対象者が地域に埋もれる事態となっていることが明らかになった。

介護給付費実態調査結果の概況(平成18年5月審査分から平成19年4月審査分) (Source:厚労省)
-年間累計受給者数の03-05年度までの伸び率と05-06年度の伸び率を比較してください-

介護保険サービス利用者数、初の減少 厚労省調査(Source:asahi.com)

介護保険事業 軽度認定者1609人減少 06年度県内 給付額は5億8200万円増(Source:山梨日日新聞)

制限厳しく 負担重く/介護給付費大幅減(Source:沖縄タイムス)

 介護保険制度の報酬体型を見直すとか、小手先の改善も一定の効果を見せるだろうが、私は介護保険制度そのものを解体再生して出直す必要があると考えている。このままでは要介護老人とともに、私たちも共倒れだ。


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