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「できる人」が辞める組織-Aクラス社員への「作法」 [現場のシステム]

 年度末が近づく。こんな節目の時期、組織は人の入替えが激しくなる。新入社員が入ってくる。そして退職する人もいる。

 私が組織批判を理由に異動を余儀なくされたとき、色々な面で支えてくれた人が辞めてしまう。事情は様々あるにせよ、組織のマネジメント不足が理由となると、彼女に共感すると同時にこの上ない残念さを感じてしまう。
できの悪い組織においては、まず出来る人から辞めていくものだ。出来る人が失意のなか辞めていく。そんな組織はどこかおかしい。

 ハーバード・ビジネス・レビューは2007年1月号で「Aクラス社員のマネジメント」という特集を組んだけれど、臨床心理士の経営コンサルタントが書いた「困ったAクラス社員を手なずける法(原題:How to keep A class players productive:Berglas)」はなかなか示唆に富んでいる。
 企業の20%に当る人材ながら、その生産性の80%を稼ぎ出す「Aクラス社員」は、有能で知的、仕事の限度を知らず、情緒不安定で負けず嫌い、同僚や部下との協調性がない。劣等感に突き動かされ、高業績をたたき出す、そして扱いにくい「Aクラス社員」。

 読み物としても非常におもしろいこの論文。これを単純に性格診断的な記事として読み飛ばすのは、ちょっともったいない。ちょっと仕事の出来る人には身に覚えのある、こんな概念があるからだ。「成功に麻痺する人々」

 Aクラス社員は仕事が出来る。量においても質においても。仕事が出来るから「Aクラス」なのだ。誰もがそれを賞賛するけれど、同じ水準の仕事を続けるうちに、いずれそれが当たり前になる。さらなる賞賛を求めるには、より高い水準の仕事をしなければならない。それは往々にして際限がない。なぜならAクラス社員は限界を知らないから。そんなAクラスもいずれ限界に突き当たる。突き当たってからではもう遅い・・。
 「成功への麻痺」と称されていたこの現象は、Aクラス社員でなくとも似たような事例があるだろう。けれどAクラス社員は業績水準が高いから、破綻したときの損害度合いが高くなってしまう。
 際限のない高業績を要求する「麻痺」した組織が過ちに気付くのはおそらく、そのAクラス社員が退職するか燃え尽きるかして、いなくなってからだろう。その高い水準を維持するためには、単純に代わりの人を増やせばよいというものでもない。だからこそ対策が必要になる。
 こんなAクラス社員のマネジメントについて、この論文では以下の取組みを書いていた。
・自尊心を満足させるため花形役職につける
・頻繁に心の底から褒める
・仕事の限界を教える
・チームワークの重要性を分からせる

・・・・・

 以前医者を講師に、事務部門対象の学習会をしたことがあったけれど、その医者は「医者というものは際限なく仕事をし続けてしまう。事務のみなさんには医者の仕事に上限を与えて欲しい」というようなことを言っていた。業務マネジメントを違う職種に求めることには違和感を覚えるものの、これがAクラス社員をマネジメントする一つの手法であることは上記の通り。

 そして褒めると業績が上がることは、古典的な「ピグマリオン理論」でも有名だけれど、HBR2003年12月号「失敗に寛容な組織をつくる(The Failure tolerant leader:Farson,Keyes)」によれば、単に褒めるのではなく、相手の行動内容を理解し個別具体的に評価すること-つまり漠然と「ヨクヤッタ。カンドウシタ」とかではなく「君のこの行動はこのようなかたちで業績好転につながった」などと評すること-褒める必要すらなく、行動や思考を理解することが重要であることが説かれていた。逆に理解せぬまま、単純に褒めるだけではモチベーションの向上を招かないどころか、褒められることを当然ととらえ、逆に凡庸な結果でも褒められないと不満を醸成させてしまう・・。
・・そういえば以前「上司のあるべき姿」のエントリで、酔っぱらって話していたことはこの論文の内容だったみたいだ。

 「完璧」を求めて限界を超えて仕事をしてしまう、だから時間がなくて求める水準-これが時間の経過と共に高くなっていくから際限がない-に満たない場合、逆に仕事が手に付かず悩んでしまう。
Aクラス社員の仕事は常に卓越している。だからこそ常に評価してあげなければならないし、時には導いてあげなくてはならない。

 自分のつまらない地位を守ることばかりに専心して、これらのスタープレイヤーを燃え尽きさせたり辞めさせたりするリーダーは、その組織の崩壊を見るまで過ちに気付かないことだろう。つまりできのいい社員が辞めていく組織のリーダーは、腐敗した官僚主義の蔓延に対処する、そしてリーダーである自分自身の身の振り方をまず考えること、これらが必要なのだと思う。

・・ふう、空疎なお世辞はいいから、たまには業務を本当に理解して評価してもらえないものかなあ、と思う。けれど現場の職員に喜ばれる結果を残せると、仕事をやってて良かったな、無理してでもやっていて良かったな、とも思う。


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