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盲導犬は、吠えるし鳴く。仕事中でも。 [雑想]

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写真は記事とは関係ありません。今年撮影した実家の犬です

 盲導犬がいつの間にか傷つけられるという事件が起こってしばらく経つ。
 この盲導犬、けがをさせられても吠えなかったことから、盲導犬は何があっても吠えないように訓練されているなんて誤解が広がり、盲導犬を育成している団体に抗議の意見があったとかなかったとか。

 大学生だったとき、私のゼミの教授が盲導犬を使っていた。その時のことを思い出す。

 教授の盲導犬、名前は「ネモ」(仮称)。ネモは、盲導犬として立派に仕事をしていた。

 けれどこんなこともある。 授業中にクンクン鳴くのだ。教授が叱って静かにさせる。けれどしばらくして、またクンクン鳴く。それでも放っておくと、今度は「キューン、ウォーン」とだんだん鳴き声が大きくなる。だまって伏せていなければならないのに、うろうろと動き出す。で、だいたいこうして鳴くとき、ネモはウンチがしたいのだ。

 教授は仕方なく、ネモを外に連れ出す。


 学生はびっくりしている。だって20年以上前であっても、盲導犬のことは世間一般には知られていて、仕事中は鳴かないものだ、と思っていたから。

・・・・・

 教授とゼミ生で合宿に行く。教授の隣を歩いていると、突然ネモが、不意に向きを変えて「ウーッ」とうなる。
 まわりのゼミ生が「えっ」という反応をする。

 ネモの目線の先には、ネコがいた。

 「ネコを見るとだめなんだよ、ネモは」と教授がぽつり。

 その合宿で夕食時、教授のそばにいたネモは、ハーネスを外している。仕事から解放されたのだ。そんなときのネモは普通の犬になる。
 がばっと突然起き上がり、「ワンワン」と吠える。何かがいたのだろう。ネコかな。

 みんなびっくりする。「盲導犬も吠えるんだ」と顔を見合わせる。

・・・・・

 あるときゼミで、盲導犬の体験をしてみようということになった。黒いラブラドールレトリバーがやってきた。毛の艶よく、いかにもな盲導犬。てきぱきと仕事をこなし、ゼミのみんなは「すげえ」と感心していた。
 そんな様子を見ていたネモは、ちょっと寂しそうにしていた。そんな気がした。

 教授の部屋で、その黒いレトリバーも、ハーネスを外して休んでいる。
 私が触る。すると犬は、コロコロと体を動かしてお腹を見せる。あのエリート盲導犬が、普通の人なつっこい犬になった。こんなに人に慣れるなんて、とまわりがびっくり。

・・・・・

 盲導犬は、結構早く歩く。いやまわりから見たらそうでもないんだけれど、目隠ししている私たちは、やはり不安なのか、歩みが遅くなる。そんな私たちを、盲導犬は普通に誘導するから、体験している私たちには、盲導犬の案内をとても早く感じるのだ。

 盲導犬と使用者とを繋ぐ「ハーネス」。盲導犬が体につけている金属の棒だけれど、これを触ると使用者がびっくりするから、決して触ってはいけないこと。視覚障碍者を案内する際には、声などで案内することを教わった。


 それはもう20数年前のこと。ネモはもちろん、「エリート盲導犬」ももう生きてはいまい。
 その頃と比べて、日本は障碍者に優しい社会になっただろうか。ちょっとした誤り(厳密にはそうとも言えないと私は思うが)に対して、ヘイトスピーチがネットを飛び交うこの時代。この盲導犬を傷つけるという事件も、同じような傾向を感じざるを得ない。
 果たしてあれから私たち社会は、知的に進化したのだろうかと、思い悩む今日この頃である。
タグ: 盲導犬 障碍
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コメント 4

cheese999

ちょっとした想定外(?)、許す器の大きさが欲しいですね(^_0)ノ
by cheese999 (2014-09-15 07:12) 

ponnta1351

先日の盲導犬のこと、なんて忠実で健気だったのか、痛いのを我慢して、さぞ、思いっきり吠えて飼い主に知らせたかったか、思うと胸が痛くなります。
教授のネモちゃんと黒ラブ、微笑ましいエピソードですね。 

兎に角日本は盲導犬に限らず、聴導犬、介護犬などの育成も遅れていますよね。厳しい訓練に耐えた犬たち、障害者や災害に携わっている犬たちの理解をもっと深めて欲しいです。

先ほどのニュースで白状の高校生の膝裏を蹴飛ばした男は40何歳かの知的障害の人間だったとか。
by ponnta1351 (2014-09-15 11:34) 

Mosel

ジョージさん。
ヒステリックに騒ぎ立てる器の小ささを感じます。自分に不利な、けれど確定した歴史的事実を、ここぞとばかりにひっくり返そうとする「言論」。
国際的には蟷螂の斧なんですけれどね。日本国ではどうもそうではないみたいです。
「ネトウヨマーケティング」という言葉が、密かに現れているように感じます。
by Mosel (2014-09-15 22:09) 

Mosel

ponntaさん。
いまだに、20年以上も前のことなのに、はっきりと覚えています。
ネモは、ちょっとダメな子でしたけれど、皆から愛されていました。
私はネモが大好きで、教授棟に行くたびに、いつもネモをさわっていたのです。仕事中だろうがそうでなかろうが、さわりまくっていました。

件のけがを負わされた盲導犬については、びっくりして吠える間もなかったという意見もありましたが、私はそれに近いのではと思います。
生理的欲求を抑えるのは、訓練でも不可能ですから。

聴導犬や介護犬。当時は一番有名な盲導犬すらも、ほとんどの人に行き渡らない状況でした。数万の視覚障碍者者に対して、盲導犬は数百頭という時代でした。
それが改善されたという話は聞きません。

さて、その頃に比べて、今はどうでしょう。本当に余裕がない世界になっているような気がします。
余裕がない世界は、息苦しい。そんな世論が、障碍者への厳しい態度にもつながっているように思います。
もっともそれは「ノイジーマイノリティ」なのかもしれません、が。
by Mosel (2014-09-15 22:26) 

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