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弱者を踏みつけて建つ原子力発電所 「そこで働いているのは誰か」原発における被曝労働の実態 [社会情勢]

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会場付近 「女坂」にたむろしていたネコ

 6月4日土曜日、仕事が終わってからお茶の水まで出かける。表題のシンポジウムに出るためだ。原発の今後や放射能への不安ばかりが報道される中、そこで働く労働者にスポットを当てたこの企画は、なかなかに時宜を得た内容と思う。

主催はアジア太平洋資料センター(PARC)。協賛は首都圏青年ユニオン

パネリストは以下の通り(敬称略)
・樋口健二(写真家。以前のエントリで取り上げた写真集を出した人)
・風間直樹(週刊東洋経済の記者。医療や雇用の問題でも非常によい内容を報じている人)
・蓮池透(元東京電力社員。入社時から原発で働いていた。弟が朝鮮に拉致されていた)
・コーディネーターとして河添誠(首都圏青年ユニオン書記長)
 私が原子力発電に批判的なのは、今回の福島事故のように、大規模な被害を生み出すことよりも、通常稼働時に多くの被曝労働者を作り出すこと、そして放射性廃棄物の無害化が現在の技術では不可能であり、かつ今後もその見通しが立っていないという点にある。

 だから福島事故を見て、急に反原発の気運が高まる状況を、どこか空々しく思うこともあるのだ。

白血病ばかりではない健康障害 そして被曝隠し 提訴妨害

 樋口さんは言っていた。現在までに労災と認定された原発労働者の病気は、白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の3種である。しかし実際には皮膚の障害や目、緑内障が結構あるらしいとのこと。
 こないだ福島で作業中の労働者も亡くなったが、心筋梗塞などの循環器系をやられる人もいる。
 また樋口さんは、被曝線量が50mSv以下なのに、癌で亡くなっていく労働者もたくさんいると言っていた。

 もちろんこれらの障害は労災認定されないのだ。

 だって国が定めた基準にないから。

 50mSvと癌の発症に相関はないし、緑内障なんて起こりうるはずがないじゃないか・・ということだ。
 つまり労働者は原発で働き出してから障害が出ても、泣き寝入りするしかない。
 現に電力会社を相手取って起こされた損害賠償訴訟は、ただの一つも労働者が勝った事例はない。労災認定もやっとのこと10人だ。

 さらに労災申請しようものなら、会社はあの手この手を使って取り下げさせようと画策する。夫の留守中に600万円をつかまされ、労災申請しないという念書を書かされた妻。100万円で取り下げせざるを得なかった労働者。声を上げた人でさえこうなのだ。

 多大な苦労をして労災申請、そして訴訟に持ち込んでも、被ばく線量を改ざんされる。そもそも作業時の線量計を会社に渡して本人がその数値を見ていないから証明しようがないなんてケースもあるとのこと。

人買いと偽装請負が横行する原発労働

 数年前に派遣業大手「クリスタル」の大規模な偽装請負が社会問題化した。しかし原発での雇用状況のひどさは、風間さんが「戦前の労働窟のよう」と言うほどにひどいようだ。
 風間さんは言う。東京電力は請負企業-関電工などの関連大手-に業務委託するのだが、それから孫請けひ孫請けと丸投げされ7次8次受けあたりになると、ヤクザが介在したり、契約書もなく口約束で働かせたりという事が起こっていると。
・・クリスタルでさえ契約書くらいは作っていた。
 そして請負業者は労働者を「出向」扱いにして、現場の社員に指揮権を与えてしまう。

 典型的な偽装請負である。

 こうした重層請負構造が労働者にとってどんな問題をもたらすかというと、元請けが責任をとる状況にないため、労災との関係が出てくるとのことである。労災に対して元請けが無責任であるため、かつ末端の業者が引っ張ってくる労働者に健康保険などはかけていないため、労働者に何かあった際に、彼らが極めて無権利な状況に置かれるということなのだ。
 清掃業務などと違って、原発労働は常に危険が伴う。今でさえなかなか労災申請が難しい状況で、そもそも無権利な状況にある労働者が、健康被害を訴えることさえできないシステムが、原発労働の中では出来あがってしまっている。

 青年ユニオンの河添さんは、この構造が職業安定法違反で、事案としては大きな事件であると指摘した。また福島で60代男性が心疾患で死亡した件を踏まえて、労働者の基礎疾患調査、安全教育といった新規入場教育もしていないことも指摘した。

 つまりは徹底して労働者をモノとして扱う、扱わなければ回らないのが原発ということだ。


 あなたの見えないところで、たくさんの人が苦しんでいる。そんなことに気づかないまま、原発の爆発で放射能が飛んできた。さあ大変だ反対しよう・・では遅すぎる。
 70年代初頭から原発労働者を追っていた樋口さんは言った。40年たってようやく(日本で)原発労働者が注目されたと。原発は事故時だけではない。通常稼働時、定期点検時、多くの被爆者を出しつつ稼働を続けている。
 そしてその被害者は顧みられることもない。

 社会的に弱い人、貧しい人を踏みつけにして、発電を続ける原子力発電所。これがその正体なのだ。だから私は原発はやめるべきだと考えている。せめて労働者から収奪する構造だけでもたださなければ、と思う。


原発は存在そのものが公害だ

 樋口さんがいいことを言っていた。原発は公害としての視点が必要なのだと。そうだ、原発は公害なのだ。
 個々の被曝線量がどうとかではなく、公害として健康被害があった人を公害患者と認定する。それが今必要なのだ。

 莫大な放射性物質を放出した原発の、それが最低限の施策と思う。

 子どもを持つ親はどれほどの不安を抱えているのか、そして自身や子どもが放射能のモルモットになることを、どれほどの親が恐れているかを考えてほしい。そして子をもつ親は、健康被害で苦しむ原発労働者と、今こそ連帯すべきであると思う。


樋口さんの本もこれから夏にかけて再販されるそうです


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ponnta1351

読ませて頂きました。
その様なシンポジウムが有ったんですね。
未だに収束を見ない原発、私たちが知らない事が山ほどあるようですね。
詳し事は分からないまでも、静岡のお茶、東京都の汚水処理施設等々いろいろな所で検出されていますが、チェルノブイリなどの事故から見ても、なんか、酷い事が起こりそうな気がしてなりません。

先日、チェルノブイリ事故から10年経った頃に現地に行った人の話ですと、皆、子供たちがハイネックの洋服を着ていたそうです。
何故なら甲状腺の手術をして居るので、傷を隠すためでした。そんな事がこの国で起きないことを願います。
by ponnta1351 (2011-06-10 12:16) 

Mosel

ponntaさん、いつもありがとうございます。
今回のシンポジウムは豪華なメンバーで、コーディネーターが私の旧知だったこともあり、仕事の後でしたが出かけてみました。

政府が根拠とする「安全」の根拠に疑問を呈させるお話も多々あり、あらためて放射線障害というものは、学問の世界と現実との乖離が激しいのではないかと、考えさせられました。

都内でも子を持つ親は、中部地方以西の食材を取り寄せている人も多く、私はそこまでする必要はないんじゃないかと思いつつも、少々不安ではあります。それこそチェルノブイリのように、数年後、あまり多くないはずの小児がんが激増しないことを祈るばかりです。
by Mosel (2011-06-11 21:15) 

ayu15

書かれている健康被害含めて影響が気になります。


広島長崎の研究原爆投下ののちの影響・ビキニの研究実験の影響・そして福島。インドのどこそこ(自然界の放射能)
長期視点での様々な研究お願いしたいです。

今まで研究費ももらえず発表の大変だったようですが・・。
by ayu15 (2011-06-22 19:59) 

Mosel

ayuさん。コメントありがとうございます。
今回の事故については、かなり大規模な健康調査を実施しなければと思います。それは福島県に限らず、東北、関東地域を含めた広大なエリアである必要があります。

そして、今までのような、健康を害した人が膨大な資料を添付し、やっとのことで申請するような労災型の補償ではなく、その地域で健康被害のあった人をもれなく救済する、公害型の補償も、同時に考えていく必要があるでしょう。
by Mosel (2011-06-23 05:52) 

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