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元栓がいっぱいある介護保険-「支出」という元栓 [社会情勢]

 「医療崩壊」の波に乗って、介護分野での極端な低賃金・重労働体質が問題になった。国は介護報酬3%アップを売り文句に、介護者の賃金がこれで上がるかのような報道がマスコミを通じて繰り返された。

 でも皆さん、ご存知でしょう?コトはそんなに単純でもバラ色でもないってこと。というのは・・。

 今年4月から、要介護認定の基準が変更された。数ヶ月前からこの基準変更についての問題が、一部介護関係者で取りざたされていた。
 曰く、全介助の利用者、髪が生えていないから整髪なし、これまでは対象者の動作状況から柔軟に判断していたのに、新基準では「自立」と判断・・。食事をそのまま出すとムセるから、食形態を工夫して出しているのに通常の人と同じ「食事自立」と判断される・・。
 つまりは今の要介護度を低くするような基準に変更するというわけだ。

 4月3日付けしんぶん赤旗にその辺の問題が1面トップと3面(認定方式変え介護費削減・厚労省が内部文書作成)に渡り掲載されている。Webでは記事の一部のみだが、これは非常に分かりやすい。ほかにも・・

「介護認定 新基準・厚労省見直し・根幹変わらず」(3/26付)

 等々赤旗が連日のように報じている。

 さて、これの何が問題なのかというと、政府の「介護報酬アップ」は「まやかし」であり、介護報酬は実質的に下げられるということなのだ。以下詳しく見てみる。
まず医療保険制度から見てみる。既存の医療保険では以下の手続きを踏む。

1.人が医療保険(各種健康保険)に加入する(被保険者となる)。
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2.医療機関に被保険者が受診する。
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3.被保険者は医療機関に利用料の0割から3割を支払う
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4.医療機関は各利用者ごとに請求書(レセプト)を作成し支払基金、国保連へ医療費を請求する。
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4.1.医療費の額(診療報酬)は基本的に全国共通。また患者によっても差はない。

介護保険では以下のとおりとなる。

0.被保険者は40歳以上~65歳未満(2号被保険者)、65歳以上(1号被保険者)。40歳未満は加入できない。逆に40歳以上は強制加入。基本的に1号保険者にならないとサービスは利用できない。
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1.1号保険者で介護が必要と考えられる場合、要介護認定を受ける(2号は特定疾患の患者のみ)。
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2.2+5段階(前者:要支援2段階、後者:要介護5段階)の要介護認定が下る。また「対象外」となる場合もありうる。
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2.1.要介護度に応じてサービス利用の総量が決まり、軽いと利用できるサービスは減る。また「要支援」になると、サービスは原則月単位となり、利用できるサービスが大幅に制限される。
もっとも、いずれの場合でも全額自己負担とすればサービスは利用できる(介護保険外での利用)。
*要介護認定を受けた者を、ここでは便宜的に「要介護者」と呼ぶ。
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3.要介護者はケアマネジャーと契約を結び、ケアマネジャーに「ケアプラン」を作成してもらう
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3.1.ケアマネジャーは要介護者の状況から適切なサービスを組み合わせ、介護のスケジュールを作成する。これがケアプラン。ケアマネジャーはケアプランに基づき各サービスを提供する事業所に「サービス提供票」を送付し要介護者の利用予定を通知する。
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4.各介護事業所は要介護者に、サービス提供票に基づいたサービスを提供する。(その際、要介護者と個別に契約を結ぶ)
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5.利用者は各介護事業者に原則利用料の1割を支払う。
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6.各介護事業所はその月の終了時に、ケアマネジャーへサービス提供実績を送付する。また各利用者ごとに請求書(レセプト)を作成し国保連へ介護費を請求する。
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6.1.介護保険では、同じサービスを受けても、要介護度が重いと、サービスの費用も高くなる(介護報酬は要介護度別に設定されている)。
また地域別にわずかながら報酬に格差を設けている(最大で8%程度)。

上記は施設系サービス(介護療養病棟、老健、特養)の場合は若干異なる。
つまり介護保険では医療保険で記した「1.医療保険(各種健康保険)に加入する(被保険者となる)」の段階をクリアするまでに1~3までの手順を踏まなければならない。踏まなければ介護保険でのサービスを受けることが出来ない。
またケアプランを無視して、利用者が勝手にいろいろな事業所で介護サービスを受けることは出来ない(もちろんケアプランは利用者の要望に基づき制作することが原則)。

・・・・・

さて上記のプロットから、医療費の支出を抑えたければ、医療機関に支払われる「診療報酬」を減らすこと・・がもっとも効果的であることがわかる。

そのために、非常に大まかには

・公定価格である「診療報酬」の点数そのものを減らす
・被保険者が医療機関にかかりにくくする

上記2点の手法がある(注)

さて介護保険である。介護支出を抑えたい場合、上記医療の手法に加え、

・要介護認定を少なくする、または要介護度を低くする
・要介護者がケアプランを立てられないようにする

 という2種類が追加される。果たせるかなこれらは実に効果的に介護保険財政へ影響を与える。下記の通りに。

・要介護度を低くすれば、それだけ介護報酬への支出が抑えられる。
・要介護認定を受ける人を少なくすれば、そもそも介護保険を利用する人が減る。
・ケアマネジャーを少なくすれば、ケアマネ一人あたりの担当人数に制限を加えれば、自ずとケアプランを頼める人数が減少する。

 冒頭のニュースは、最も効果的な「要介護度の低下」を意図したものだ。厚労省の役人があけすけに「要介護1を要支援2に」と明言していることを、共産党の小池晃(医師・参院議員)が暴いた。
 06年改定により、地域で介護を必要としていながら認定を受けていない老人の「掘り起こし」が出来なくなっていると聞く。要介護から要支援になり、各種のサービスが利用できず困っている人も少なくない。その一方で介護財政が黒字化した自治体も、特に東京都内では幾つもある様子。利用者が減っているのだ。

 何のことはない。高齢社会になって要介護者が増加。介護サービスを利用する人が増加して、介護に対する意識、そこで働く人たちへの認識が変化してきた。ほとんどワーキングプアに等しい賃金で働く介護関係者の実態が明らかになってきた。
 リップサービスとして「介護報酬3%アップ」を言い出さざるを得ない。しかし医療福祉分野へカネを出す気はさらさらない。であれば、マスコミ受けしやすいカタログだけの「報酬アップ」を目立たせて、実態は介護報酬減へ持ち込むという作戦である。
 介護保険の制度だからこそ出来る、姑息な手法といわざるを得ない。

 介護事業所では利益を求める事は出来ない。それは皆わかっていることだ。営利ではとてもやって行けないからこその、2度にわたる「コムスン問題」が発生した。
 介護事業者は、儲けたいのではない。このままではやっていけないのだ。それは誰もがわかっている。この間の状況変化は、介護へ国が金を出さなければどうにもならないということが、一般論として定着したと言えると思う。

 しかし実際の政策はこの通りである。しかも制度の裏をかいて、実際の支出を削減する手法。羊頭狗肉のこの手法、実に悪質極まりない。

 昨今の経済恐慌に関連して、数十兆円の財政出動とか、経済効果は絶対にない「定額給付金」とやらに数兆円と、能天気な話が続いている。米軍基地グアム駐留経費負担問題でも、その財政規模に比して「財源論」とやらは一切出てこない。保健福祉財政に、必ず付きまとう「財源論」。これがいかにうさんくさいものであるかが、あらためて証明された感が無きにしも非ず。
 今こそ政治を変える時だ。そして介護保険もその根本から抜本的に見直しすることが必要だと思う。

(注)そのものズバリの診療報酬の点数削減は、現在実際におこなわれている。
患者が医療機関にかかりにくくするには、一つはまず医療機関そのものを減らすことだが、病院のベッド数は保健政策により制限できるが、開業医の新規開業を阻む事は出来ない。しかし医師・看護師養成を制限することで間接的に実施されているといえる。
医療費の自己負担を増やすという方法もある。これは人民の懐に直結するため、政策として取りづらいが、実際に80年代から段階的に実施されている。
被保険者そのものを減らすという政策もある。これについては国民皆保険制度のもと、あからさまには出来ないが、高い国保料と「資格証明書」の乱発、社保への加入が義務付けられている会社員を国保に加入させる悪徳会社に対する甘い行政処分、等々で実質的におこなわれているとも言える。
これらがあいまって、現在「医療崩壊」と呼ばれる状況が社会問題化していることはご存知の通り。

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