SSブログ

過労死はどこまでも死んだ人の責任なのか-小児科中原医師の過労自殺事件に寄せて [労働運動~働く人たち]

「偽装管理職」「名ばかり管理職」という言葉はずいぶん一般的になった。テキトーな役職名をつけて、わずかな「手当」を支給して、地獄のような長時間過密労働を強いる。要は企業の人件費削減策として編み出された悪知恵なのだが、ここのところの労働者の巻き返しで、企業側も対策を取らなければならなくなった。
その対策というのが-マクドナルドに顕著だが-相変わらず労働者から搾取する悪知恵そのものであって、またも労働者からの反撃をうけている。

さて、そんな企業の悪知恵を後押しするかのような判決が、東京高裁で出されてしまった。


-----
(日経メディカルから)
 小児科医の中原利郎氏の過労自殺をめぐる民事訴訟で、東京高裁は10月22日、損害賠償請求を棄却するという判決を言い渡した。判決では、一審では否定された業務の過重性を認定し、過重な業務と中原氏のうつ病の発症には因果関係があるとした。しかし、中原氏がうつ病にかかることを予想することは困難であり、安全配慮義務ならびに注意義務を怠ったとは言えないとして、病院側の責任は認められなかった。

  1999年、小児科医の中原利郎氏が過重な勤務からうつ病になり、勤務先の病院屋上から投身自殺したのは、病院が安全配慮義務を怠ったためであるとして、 2002年に遺族が病院を相手取り損害賠償請求訴訟を提起した。この訴えに対して2007年3月、東京地裁は原告の訴えを棄却、これを不服として遺族が控訴していた。遺族が労災認定を訴えた行政訴訟ではすでに勝訴が確定しており、行政訴訟とは異なる判決となった。

 記者会見の席上で故中原氏の妻のり子さんは「夫の勤務状況は今まさに問題になっている『名ばかり管理職』だった。夫には残念な結果だとしか報告できない。昨年の行政訴訟とは全く逆の判決となり、司法に対して不信感を持った。判決文をよく読んで、控訴するかを検討したい」と語った。

 原告側弁護団の弁護士、川人博氏は「中原氏の業務の過重性が認められ、勤務状況とうつ病に因果関係があると認められたことは一審から前進したと思う。しかし、病院側の責任が認められなかったことは到底納得できない。このまま医師の過重労働が放置され、被害が拡大するのではないかと危惧している」と述べた。
(引用終わり)
-----
 日経の記事には病院名が伏せられているが、この病院は立正佼成会付属佼成会病院(東京都中野区)である。

 しかし、またも出た。東京高裁の「頑張って倒れたらあなたの責任。組織は関係ないですよ」的な判決。

 医療崩壊の象徴として、まず小児科医。そして産婦人科医が取り上げられているのは、すでに一般常識の範疇かと思う。当時小児科担当マネジャーになり立てだった私は、この事件の発生に大変驚いた記憶がある。そしてその後の小児科医確保の困難さも、身を持って体験した。経営も正直、厳しいものがあった。

 さてこの裁判、地裁では医師の当直勤務が「労働時間にあたらない」などと前代未聞の判決が出され、請求棄却となった。当然昨今の状況から原告勝訴が期待されていた裁判だ。なのにこの結末。地裁のトンデモぶりは若干解消しているものの、結論は同じ。

 私は思う。事実から現実を分析するならば、こうなるはずだ。

・役職者なのに過重な勤務が続いている
・・それは人手が足りないから。なぜ?
・・・彼に人材確保する権限が-事実上-ないから
・・・そして人材確保しようにも、その人材が-事実上-いないから
・・・彼自身の働く時間を、彼がやりくりする権限が-事実上-ないから


 報道からみるこの裁判官はこんな考えで現実を転倒させる。

・役職者なのに過重な勤務が続いている
・・それは人手が足りないから。なぜ?
・・・「役職者なら」人手を増やせばいいじゃないか
・・・「役職者なら」自分の働く時間を調整できるじゃないか
・・・それら「役職者なら」やってしかるべきことをやっていないのだから、それは働いて自殺した人のせいじゃないか


 事実から現実を分析するならば、当然前者の流れになる。誰が好き好んで自らの労働強化を求めるか。固定化した「管理職の定義」から現実を見つめようとする判決は、滑稽な結論しか導けない。
 つまり現実は、「労働裁量権」も「人事権」もない彼が、法的にも確定した「名ばかり管理職」であることだ。権限もないまま責任だけが押し付けられ、彼が倒れるまでその真面目さを利用しつくした組織は、その後、何の責任も取ろうとしない。
 最近司法は、その問題性をようやく認識し始めたように見えたのだが、川田直さんの裁判判決でも見られた通り、東京地裁・高裁は、労働判例の面では企業寄りの「逆コース」を歩んでいるのではないかと思う。
 労働者の運動でこの流れを弾き飛ばすのはもちろん、司法の場でも跳ね返す動きが必要と思う。

 ご遺族に以前お会いした時、高裁が最後のたたかいで、ぜひとも勝利をと訴えておられた。残念な結果ではあったが、報道にあるように、ぜひ上告して最高裁でのたたかいを継続させてほしいと思う。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。