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医療情報学会春季大会とやらに [医療情報技師というお仕事]


伊丹空港からのモノレール車窓から望む-傑作機ボンバルディアDASH8とMD87?が見える
 表題の学会に参加してきた。今回は大阪。秋は神戸で行うらしい。私は東京在住だが、この学会はなかなか首都圏で開催してくれないので困る。

 DPCを基にした診療報酬体系がスタートして、そのデータがどのように利用できるのか、どう活用するのかという点が中心だったように思う。関連してデータウェアハウスに関するものや、診療情報管理士との共同セッションもあった。データを医療や経営にどう活用するか、どこでも悩んでいることだろう。

 ・・さて、視点をちょっと皮肉っぽく変えてみる。
 日本の医療界がコンピュータを導入し始めたのは70年代から。はじめはレセプト作成用のコンピュータだった(いわゆる「レセコン」)。そして医療行為の実施や確認を電子化する「オーダーエントリシステム」(「オーダリング」は登録商標らしい)が各地で本格化したのが90年代。電子カルテも普及率5%とはいえ、全国の病院数は約9000施設あるから、だいたい500施設に電子カルテがすでに導入されていることになる。オーダリングは2000病院、レセコンに至ってはほとんど全ての病院が導入しているはず。
 DPCになってデータの活用がこんなにできる。ベンチマークもだせる」みたいな講演もあって実に興奮したけれど、じゃあ今までこれほどまでに電子化された状況の中で、医療統計や経営分析に耐えうる情報を、それらのシステムが十分出し切れていない、そんな病院が(私たちのところも含めて)たくさんあることが改めて明るみに出た、ということになるんだろうか。

 医療統計を出そうにも、病名は医事課がつけた「保険病名」。紙帳票とオーダー情報の混在。それらを扱う専門的なスタッフ(統計処理できる人やコンピュータによる処理ができる人)の欠如。たとえまともな内容でも各社バラバラのデータ構造。比較するにも比較できない前提条件すらガタガタな闇鍋データ・・。


医療業界はもう目いっぱい効率化している
私が参加した目的の一つが、データウェアハウスのシンポジウム。そこで愛媛大学大学院の石原謙先生のプレゼンが異彩を放っていた。つまりこういう事。「日本の医療は本当に効率化が必要なほどに問題山積なのか?」
 世界最長の平均寿命に日本医療のアウトプットを見いだし、かつOECD各国の中で医療費の対GDP比が最低な日本。同じレベルのイギリスは(「3時間待ちの3分診療」と日本医療を揶揄する人がいるが)その日に診察してもらうことすら出来ない。分娩費用に見る日本とアメリカ合州国との格差。そしてそれらがなぜ日本で達成できているかを、医師の過労死レベルの労働時間を提示。貧乏病院は医療情報に関わる莫大な支出を捻出できようはずもなく、当然国は補助金も出さない。下手に電カルなど導入しても、スタッフの業務効率を悪化させるばかり。
 マスコミがよく使う「医療の無駄」「医療の効率化」のレトリックを厳しく批判し、効率化すべきは医療分野ではなく、一般会計・特別会計・道路特定財源で50兆円にも達している公共事業にこそ目を向けるべきだ、として、このままでは医療費削減の口実に使われかねない医療系データマイニングの方向性に警鐘を鳴らしていた。
 医療機関からの参加者にはずいぶんと好評だったように思う。

 データを駆使して業務の効率化をはかる。ベンチマークが他の病院で出たら、それに近づけるよう努力する。情報収集や意見交換をしてやり方を学ぶ、しかも自腹で。だってそれが患者のためでもあるのだから。
 するとそのベンチマークを基準にして国は診療報酬を設定する。「医療費は高すぎる。怠けている病院がある。不正をしている施設がある。医者はこんなに儲けている」という宣伝をマスコミに乗せながら。そしてそこに特異な病院のデータをベンチマークとして提示する。
 これって医療関係者の努力を、国がかすめ取っているって事だよなあ?

 この先生は、抄録末尾とプレゼンの冒頭で「医療費総額を増額させる結論/提言をも視野に含めたデータウェアハウスでなければ、医師と看護師等現場の医療人には不信しか残らない。医療費節約の結論しか認めない研究態度では、正しい結論が出る訳がない」と喝破していた。そして医療人は常に状況打開のために叫んでいかなければならない、とも。
 以前私たちのところで「医療崩壊」の著者、虎ノ門病院の小松医師の講演をしたことがある。コンセプトは良かったのだけれど、時間が長かったせいか、ちょっと散漫なのが残念だった。
 この先生に講演をお願いしたいな、とちょっと思ってしまったものだ。

 医療情報学会は電子カルテの定義をした2003年、その定義文書の末尾に「国民に納得してもらうために - 医療費の削減は目的ではない」という章立てで、こんなセンテンスを付け加えている。
「・・先進国中では医療費のGDP比率は最低であるにもかかわらず平均寿命など各種指標は最高ランクであり、WHOからもフランスと並び、日本の医療はトップの評価を受けている。・・データは、もちろんより一層の効率化や無駄の削減のためにも使われるべきであるが、それと同時に今行なわれている医療が妥当なものであれば、それを示す根拠としても使われるべきである。これらを国民に訴えることにより、より一層の医療への配分について国民から同意を得る助となるであろう・・」

 我々が医療者から真に求められているのは、案外こんな分野なのかもしれない。システム部門が職場にこもって「オタッキー」な仕事に埋没しているようでは先が思いやられる、ということだ。

 そんな求められうる人材になるべく、努力しなければならないことを実感させられた。・・そう。自腹で参加して医師やコメディカルの仲間からは同情されたけれど、役には立ったよ。


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