SSブログ

介護保険制度って現場への要求が過ぎるんじゃないの [社会情勢]

ちょっとさ。この朝日新聞の記事はあんまりじゃないかい?
「介護プラン作成 頼めない 「ケアマネ難民」浮上」(5/14朝刊)

 介護保険という制度は実に妙な制度であって、掛金を払うのは40歳から、利用できるのは65歳から(例外除)となっている。利用したいと思っても、介護支援専門員(ケアマネジャー;ケアマネ)*に介護計画(ケアプラン)をたててもらわねばならない。ケアプランを中心として各サービスがそれに「ぶら下がる」。サービスは介護事業所が提供するという形態である。
 逆に言うと、ケアプランができないと一切の介護系サービスが受けられない。だから在宅でサービスを受けたい人は、まずケアマネを捜さなければならない。(施設に入っている人は施設にケアマネがいるので、その人が担当する。)老い先短い(失礼!)人生だから、なるべく自分のことを分かってくれる、信頼関係の築けるケアマネを見つけたい。ある意味「かかりつけ医」と同じだ。同様にケアマネ側も、利用者との信頼関係の構築に腐心する。「ケアマネジャー」(中央法規出版)という雑誌がある。ここにはその辺の事例が多く寄せられており、参考になるだろう。

*ケアマネは当然のことながら国家資格で、原則医療専門職で少なくとも5年以上の実務経験が必要である。だから療養施設で働きながらコンピュータエンジニアである私には取れない。

 そんなわけでケアマネ一人がある程度のケアプラン数を超えると、一人あたりのきめ細やかなサービスができなくなるであろうということは想像できる。そして過剰なケアプラン数を抑制するよう制度上規制するのも分からなくもない。
 ケアプランの作成には大変な苦労が伴う-特に信頼関係を醸成する段階においては-のだが、そのプラン作成は慈善事業で行っているのではなく、作成者はそれでメシを食わなければならない。であれば生活できる賃金が必要だし、特に今期の診療報酬改定で看護師不足が焦眉の課題となっている現状においては、多くは看護師資格を持つケアマネに、それなりの賃金を保証-といってもこれが専門職にしてはとてつもなく低いのだが-しなければならない。
 しかしケアプランは一つ作成するごとに、8500円の報酬しか保証されなかった。つまりケアマネ一人につき得られる純収入は8500円x50件(標準的な件数とされる)の425,000円。事業所を運営する場合には、当然これに各種の経費がかかる。

 介護保険は、4月の改訂以降、要介護度に応じて、ケアプランの報酬が高くなるように設定された。ケアプランの報酬が高く設定されるのは実に喜ばしいことだが、実態はそう甘くない。ケアプラン作成の多くを占める要支援、要介護1が、その多くが介護予防とされ、現状のケアプラン報酬の半額以下(4000円)とされたからだ。現実的には介護度の高低で作成の難易度に変化が生じるわけではないのだそうだ(前述「ケアマネジャー」4月号)。またこの改訂で、ケアプランは件数の上限制度が策定され、10月からはその規定がより厳しくなる。上限は39件。上限を超えると報酬の40%がカットされる。超えた分だけがカットされるのではなく、作成したすべてのケアプランに対して減額となるから、大幅減収だ。ということは、現在の標準が50件だから、ケアマネ一人あたり10件以上、ケアプランを担当している利用者を「切」らなくてはならない。「切」った後には次の問題が控えている。
 現在多くのケアプラン事業所は要介護1とか要支援のプラン作成が約半数とのこと。これらが今後要支援1,2に移行する。すると現在ケアプラン作成を断っている事態が一転、ケアプラン作成対象者が激減する。そして要支援者のプラン作成を担当しようにも、その金額は半額で、しかし作成の手間は同様。おまけに地域包括支援センター以外は8件が上限。そして肝心の支援センターはまともに機能していない地域も多いと聞く。

 で、こんな制度を策定した時点で、多くの事業所がケアプラン難民の発生を危惧した。そしてそれが予想通り現実になった。これは制度が誘導したにも等しい必然だ。事業所の責任ではない。ケアプランを立てられない人が出るって事は、介護保険制度を利用できないと言うことだ。保険を利用できなければ、利用者は困りつつカネだけは払う。逆にカネを出す方は、支出が減るからほくそ笑む。こんな制度にした目的は何か。「カネを出す方」ははっきり言っているじゃないか。
 「臨床看護」06年3月号増刊冒頭で、厚労省の役人が記した論文は、いきなり「介護保険制度の見直しの背景」として、「制度の持続が第一」と財源問題が制度改正の本質であることを包み隠さず明言した。きれい事を並べるまでもなく、要介護老人に投じるカネなんかないって言っているわけだ(しかしここまで露骨に本音を出すか?)。

 そしたら先週の日曜、5月14日の朝日新聞2面に、こんな記事が大きく載っていた。
「介護プラン作成 頼めない 「ケアマネ難民」浮上」
 この記事自体は確かにその通りで、4月改訂実施前から、軽度の要介護者や要支援者については今後担当ケアマネがいなくなり、「ケアプラン難民」が出るであろうことは想定されていた。だからこそ今期の改訂はおかしいということで批判が大きかったのだけれども。肝心の要支援者にケアプランを作成する地域包括支援センターは多くの地域で機能していない。もう4月から制度は始まっているんだよ?どうするの?
 でもこの記事で一番の問題はここ。「報酬優先は問題(高橋信幸・長崎国際大大学院教授)」なる聞いたこともない大学の教授が「軽度者のケアプラン報酬が低いからと言ってプラン作成を拒否するのは、行政と介護現場のモラルハザードだ」と暴言を吐いた。ちょっと待て

 そもそもケアプラン事業所はどれほどが安定した経営となっているのだ?どこも爪に火を灯すような、「かつかつ」の経営状態であろう。時間外・休日労働も当たり前、利用者のために献身的に尽くしているのが現在のケアマネの実態ではないのか?目の回るような忙しさで必死にケアプランを作成し、翌月の実績で各事業所との調整に躍起になる・・。
 00年の制度発足当初は、ISDNを使った介護報酬の電子請求でも国保連は間違いだらけ、システムはバグだらけ。当座の資金すら困難になる状況下で、必死に制度を維持してきたのが、これら現場の事業者ではなかったか。
 制度発足当初から、医療機関も介護施設も決して潤沢な資金を持って運営を開始したわけではない(潤沢な資金を持って参入した、今「さやわかな」CMやっているGoodwillグループは、制度開始直後に採算が取れないと多くを撤退させたわな)。そして現在も、経営状況が安定しているとはとても言い難い。そんな中で昨年10月、介護報酬は「継続的な制度の維持」を理由に大幅な引き下げが行われ、介護事業所は生き残りをかけて必死に対応を行った。私たちの病院もまた同じだ。利用者には年金生活者も多い。簡単に患者負担を上げる方策は取れまい。ならばその-国が放棄した-負担を病院がかぶるしかない。おかげでなんとかとんとんでやってきたウチの病院は、今年度以降は大赤字・・。これ以上我々に、モラルを口実にした自助努力を求めようてか!もう限界だよ!

・・朝日さんよ。マスメディアとしての矜持がまだ残っているならば、もう少し実態を反映した記事をお願いしたい。頼むよ。


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 0

コメント 2

K岡

はじめまして、K岡(よくある名前)と言います。大阪府某所の介護事業所でサービス提供責任者をやっております。
この記事を見て、東京も大阪も変わりないなと思いました。
大阪でもほぼ同じ実情です。苦しむケアマネ、更に苦しむ訪問介護事業者、サービスを受けれない利用者。最近ではうちの事業所の利用者ですが介護保険が要支援2になり、地域包括支援センターのケアマネがその利用者相手にとんでもないことを言ってみたり。(あえて内容はいいません。本当に支援センターのケアマネか?という暴言ですので)
まあ、どこもかしこも酷くなるばかりです。給料が下がり数年後には介護福祉士しかヘルパー作業ができないといわれる状況で、誰がヘルパーをやって行こうと思うか、ヘルパーの年齢層を考えればわかるだろ!って感じです。
ぶっちゃけ、50~60歳代のおばさん(失礼)が介護福祉士の免状を取ってまでヘルパーするわけないだろ!そう言いたいです。
昔、工業系職業に言われていた3K(5Kだったかな?)がこの業界に押し寄せつつあることを感じます。まあ、3Kの内「汚い」はないと思いますが。(あると大問題だ)
大分愚痴っぽくなりましたが、この記事を読みまして苦労はどこでも一緒だなと、共感いたしました。
by K岡 (2006-10-18 11:05) 

Mosel

ご意見ありがとうございます。
今期の改訂は、介護財政の支出削減のために、支出の「蛇口を閉める」どころか水道管の元栓を閉めてしまうようなものと思います。こんな政策の中、モチベーションを維持しつつ介護業務にあたられている現場のみなさんには、本当に頭が下がります。そんな中でも地域包括は徐々に立ち上がり、「8件問題」も経過措置が延長にはなりました。問題点は本質的には変わらないとはいえ、各事業者が必死に地域を支え、制度が現実に合わせざるを得ない状況が出始めたように思います。
さて東京はまた、事業者に対する厳しい監査でも有名のようです。私も実際に立ち会ったことがありますが、不十分な法律規定を拡大解釈して「書類不備」と指摘し介護報酬を返還させる、そんな局面をみたことがありました(確かに法律はあいまいな文章なので、解釈の仕方によってはそうとれるのかもしれませんが)。これでは「元栓を閉める」だけではなく「しぼり取る」ような気がしてなりません。
利用者も提供者も報われる制度を目指していきたいものです。
by Mosel (2006-10-20 23:40) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。