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自前で人を育てられない組織 [現場のシステム]

 去年のプロ野球、巨人はずいぶんと強かった。なんだかんだ言ってリーグ優勝、そして日本一。アジア地区も制覇して、とどまるところを知らない勢いだ。
 巨人と言えば一頃前、金にまかせて他球団の有力選手を買いあさり、ひんしゅくを買っていたことがあった。それでいて大して強くもない。だからますますひんしゅくを買う。そんな時期が続いていた。

 けれど今は育成や二軍などから生え抜きの選手が育ち、主力選手にはそりゃ他球団だった選手も多いけれど、以前とは違った姿を見せてくれているように思う。だからこそ今は、アンチ巨人の私から見ても、巨人はいいチームに育っていると思う。
 どんなに優れた人材を投入しても、組織がそもそも自分の力で人材を育成できないのであれば、その「優れた人材」は力を発揮できない。そんな組織から巨人は一つ脱皮しているのではないかと思う。

 もっともスポーツの世界では、個人技的な力量も求められるから、「買いあさり型」のドリームチームが表面的には機能することもある。しかしこれが、こと普通の会社や団体組織になると、表面的にですら機能することはない。

・・・・・

 私の知る、とある会社が、幹部社員を自前で養成できず、専門職を除いた新規採用の社員を全て「幹部候補生」として採用する方針をとったのだそうだ。
 一般的な会社で「幹部」を外部から招聘するには、その組織が何らかの問題を抱えていたり、危機に陥っていたりと、変革が期待されている状態に行われることが多いだろう。外部の人材によって、ドラスティックな改革を進めることで、組織風土を変え、危機を打開するのだ。
 そしてそのような人材を獲得するには、ヘッドハンターなどを通じ、即戦力を期待される人物を獲得するものだ・・。

 ・・が、その会社、「幹部候補」を採用するのだ。「幹部」を採用するのではない。この違いはかなり大きい。
 そしてその会社独自の基準によって、通常の「求人募集」手段によって採用するらしいのだ。いわば漠然と釣り糸をたれて、釣れた魚を選抜するとでも言うものか。

***そんな方法で、優れた人材が集まるのだろうか。

 それから、そうして採用した人物を、どうやら社内で「幹部職員」として養成していく、ということらしい。そのための幹部「候補」採用なのだ。

***しかし自前で幹部養成ができないから、外部から幹部を採る以外にない組織が、一般的な求人で獲得するような人材を、果たして「幹部」として養成できるであろうか。

 いや、ま、その会社の基準とやらで採用するから、もしかして、その人が何らかのポテンシャルを持ち得ているかもしれないにせよ・・。

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 MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方という本がある。米マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授の著書だ。この本は主として、ハーバードなどの経営大学院で行われている、ケーススタディなどの教育手法は、現実の企業社会に見合っていないということを説明している(そして彼らが実践している教育手法の優位性を紹介する)本なのだが、「企業のマネジャー育成」(第8章)に、マネジャー育成をめぐる諸々が記されている。そこでは・・。

 多くの合州国企業ではマネジャーになると「ぶっつけ本番」で仕事をさせられる。言うなれば、新人マネジャーを「いきなり水の中に突き落とす」手法というわけだ。
 ミンツバーグは、その手法を批判して「いきなり水の中に突き落として泳ぎ方を覚えさせるというやり方では、溺れてしまう人が多く、うまく泳ぎ始める人は少ない」という。
 マネジャーに、学習して身につけさせる必要のある要素については、業務等による実践と並行して、理論面の理解を深めていくべき、としている。

 マネジャーによる学習のプロセスでは「見習い」が大きな比重を占める。経験と自己学習の機会を増やすという意味での「計画的人事異動」、それら経験を個人ではなく社会的なプロセスに変換させる意味での、メンターやコーチによる「メンタリング」、そしてマネジャーのパフォーマンスを「モニタリング」すること。それらが実践されている例としての「日本のOJT」、時間をかけてマネジャーを育成する日本企業の手法を例示し好評価を与えている。
(ちなみにこの本の中では、日本の一橋大学のカリキュラムも高く評価している。)

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 さて、くだんの会社に戻るが。

 この会社を昔から知っている私は、ここ数年「幹部候補」としてその会社が採用した社員が、何人も一月持たずに辞めたり、うつ病で倒れたことなどを知っている。少なくとも幹部候補として新規採用した職員が、幹部として機能したことは、聞くところ一度もないはずなのだ。

・・この会社、日本の会社なんだけど。

 つまりはミンツバーグが「(日本企業でマネジャーの育成は)いきなり水の中に突き落とすという方法だけは行われていないようだ」と表現していた、新卒採用終身雇用を特徴とする日本企業に一般的な手法が、なぜかこの会社には適用されておらず、次から次へと新人マネジャーを「水の中に突き落と」している。そして多くが溺れ死んでいる。

 これで人が育つのか、なんて指摘するまでもない。その会社の周りには屍が累々としている。

 一方で、どれほど技能が高くても、その会社が求める特殊な経験を持っていない社員は採用されないと言うことになる。現場で働く複数の知り合いは、高いスキルを持って仕事を行う人を求めている。今現役の幹部社員自身もそのような人材を必要としているはずなのだ。
 そんな人が少ないからこそ、幹部社員の負荷が増え、業務コントロールの未熟な新人マネジャーがバタバタ倒れているのではないか。

 何かがズレている。

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 どれほど優れた人物をヘッドハントしても、その人を使い切る力量がない組織は、その能力をムダにしてしまう。自前でスタッフを育てられない組織は、優れた人材を「元」優れた人材に作り替え、その能力をゴミ箱に捨ててしまう。

 残るは能力を捨て去られた人材のみ。

 組織の力量を上げる努力をしていない組織は、人材の墓場になってしまう。幹部候補生を採用するのを悪いとは言わない。しかしその前に、幹部候補生たる彼らの能力に見合った組織力量を積み上げることが、まず真っ先に必要なのだ。

 一つ一つのエピソードから、その組織の姿がよく見える。厳しい指摘を謙虚に聞き続けることで、組織の中にあってもその姿は見えてこよう。件の会社は、まず自らを見つめ直し、謙虚に組織改革をすすめていくべきだろうと思う。

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 私は以前病院のマネジャーだったということを書いたことがある。部門のマネジャーもしていたことがある。そして私もこの会社と全く同じ、「水の中に突き落と」されて仕事をしていた。
 思えば多くの人が手をさしのべ、一部は溺れる私を棒でつついた。手をさしのべた人は私の部下だったり別部門の人だったりした。本来何かをすべき人間が何もせず、あろうことか棒でつついた人間に直属の上司がいたことは、私にとって不幸なことだったのかもしれない。
 しかしそんな輩を反面教師として、今自分の経験として取り込めるようになった私は、思えばずいぶん成長したのだなあ、と思う。そんな経験は二度としたくないし、させたくもない。だからこそこのような会社を気にするし、そこで働くかわいそうな労働者のことを気にかけてしまうのだ。

 未熟な組織運営は、それそのものが一種の犯罪である。今後も私はマネジメントの研究を続けていくつもりだ。

 寒い日々が続く。心が余計に冷え切ってしまうエントリでごめんなさいね。
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