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鬼上司は復権できるか [現場のシステム]

 「鬼上司の復権」(原題はThe Great Intimidators、「偉大な脅し屋」とでも言うのか)という表題のビジネス論文があった。HBR(ハーバードビジネスレビュー)誌06年9月号は「リーダーシップ 本物の条件」という特集を組んだ。その中の一論文で、興味深い題材である。
 厳しい姿勢でもって組織運営を行う「鬼上司」は、実際には部下に強い印象を残し、よい仕事をしたとの満足感を与える。また企業にとっても、そうした「鬼上司」が好業績をもたらす例が多いとのこと。これまで多くのリーダーシップに関する論文で否定されてきたスタイルを再評価したものだ。

 鬼上司は駆け引きの能力(PQと称される:この語については最後にふれる)に優れ、「正しい方針」を困難があってもやり遂げる実行力と確信があり、それらを成果とするため彼ら彼女らが多用する、いくつかの手法について言及している。
 結果として部下はこんな心理に陥る。逮捕された「カリスマ主婦」マーサ・スチュアートを評した部下は「・・彼女についていければ、また彼女の要求水準を充たす成果を上げられれば、ものすごい満足感を得られました。」と。
*スチュアート氏は最近また本を出したようで朝日新聞に書評が載っていた。買う価値はなさそうだが

 また論者の経験によれば、ベテランマネジャーたちは自分に身につけたい能力として、最近のリーダーシップ論で騒がれる心の知能指数(EQ)や社会的能力ではなく、厳しさや強引さをもとめているとのこと。優しい上司は心の底で、鬼上司となることを望んでいるのかもしれない。

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 しかし論文をよく読んでみると、これら鬼上司が通用し、そして成果を上げているような組織とは、どうも常に激しい競争にたたされているか、極めて困難な状況に置かれている場合でのことのようだ。「改革」が必要な状況で、強力なリーダーシップが求められる。それが結果として「鬼上司」を生む、そしてそれが成功するということだろうか。

 またここで評価されている「鬼上司」は偉大な鬼上司、つまり「偉大」であることが条件であることを忘れずにいたい。この論文で取り上げられている、HPのカーリー・フィオリーナが最終的にクビになったのは記憶に新しいし、Appleのスティーブ・ジョブズは、かつて同社が不振にあえいだ20年前に同じくクビになった。「偉大な鬼上司」は「偉大」がとれた時点でやっかい者になるということだろう。見方を変えれば、偉大な鬼上司というものは、つまり玉座の上にダモクレスの剣を抱く古典的な独裁者である、ということになろうか。

 そんなわけでこの論文には次のような指摘も併記されていた。「鬼上司が一線を越えてしまう時」という囲みコラムで「鬼上司は・・だれであれ自分に反対するものは排除する傾向がある。その結果、耳あたりのよい意見しか口にしない、ご機嫌取りのうまい取り巻きだけが残ってしまう。適切な意志決定を下すには、だれしも自重とバランスが欠かせない。」「また人の話を聞く耳すら持たなくなる場合もある。「過ちが多くとも、けっして自分を疑わない」・・」

 さて、では凡人である私たちはどうすればいいか。常に正しい道筋を提示し続け、その「鬼」ぶりが、いつ諸刃の剣となって自分に向かうか分からない、緊張感あふれる「偉大な」人。そんな人にはなれそうもない私たちは、おとなしく今までの(というかここ10年ばかりで流行となった)リーダー像にならい、組織運営を進める必要があろう。決定事項は遅れるかもしれない。競争相手に出し抜かれるかもしれない。しかし無用なストレスを除去して、はたらく誰もが納得する方針。それを民主的に運営することは-組織運営のかたちとしてもリスク回避の思考から見ても-実は何にも増して重要なことではないだろうか。
 鬼上司でなければ事態を打開できない、そんな組織ではあまりにも悲しすぎる。その組織がもたらす結末は、多くの勘違いした「鬼上司」、つまり下に対しては権力を振りかざし、上に対しては「ご機嫌取りのうまい」連中を再生産して、官僚主義を蔓延させるのは火を見るより明らかだ。

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 それはさておき、偉大でもないくせにやっかいな「鬼上司」が多い組織。さてさて、あなたのところはどうですか。私の元上司の場合、「偉大」でもない、というより「無能」であったのでなおさらタチが悪かった。その「無能」に自己保身丸出しで媚びへつらう人物もいた。人が自身の能力を「自己保身」にだけ傾ける、いわゆる官僚主義における小官僚の存在は、もはや悪夢でしかない。
 こんな「鬼上司」以前の組織についての処方箋は、残念ながらHBR誌などには載ることがない。

*この翻訳論文では「Political Intelligence」とか「Social Intelligence」という言葉にそれぞれ「PQ」「SQ」という訳語を与えている。これは「Emotional Intelligence」を「心の知能指数(EQ)」と訳し、それが広まったことから来ているそうだ。でも元々の知能指数:IQという指標自体がうさんくさいものであるので、この訳語には違和感を覚える。いいじゃないか。政治的能力、社会的能力で。駆け引き知とか対人関係知でもいいかも。
*他にも論文がいくつかあって、ケネディ後の民主党大統領でベトナム戦争を推し進めたリンドン・ジョンソンのことが載っている。ジョンソンって、目的意識もあって遂行能力も高いみたいだけれど、はっきり言って実にイヤなヤツですね(笑)


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