- 雑想
授業中にクンクン鳴くのだ。教授が叱って静かにさせる。けれどしばらくして、またクンクン鳴く。それでも放っておくと、今度は「キューン、ウォーン」とだんだん鳴き声が大きくなる。だまって伏せていなければならないのに、うろうろと動き出す。で、だいたいこうして鳴くとき、ネモはウンチがしたいのだ。
教授は仕方なく、ネモを外に連れ出す。
学生はびっくりしている。だって20年以上前であっても、盲導犬のことは世間一般には知られていて、仕事中は鳴かないものだ、と思っていたから。
・・・・・
教授とゼミ生で合宿に行く。教授の隣を歩いていると、突然ネモが、不意に向きを変えて「ウーッ」とうなる。
まわりのゼミ生が「えっ」という反応をする。
ネモの目線の先には、ネコがいた。
「ネコを見るとだめなんだよ、ネモは」と教授がぽつり。
その合宿で夕食時、教授のそばにいたネモは、ハーネスを外している。仕事から解放されたのだ。そんなときのネモは普通の犬になる。
がばっと突然起き上がり、「ワンワン」と吠える。何かがいたのだろう。ネコかな。
みんなびっくりする。「盲導犬も吠えるんだ」と顔を見合わせる。
・・・・・
あるときゼミで、盲導犬の体験をしてみようということになった。黒いラブラドールレトリバーがやってきた。毛の艶よく、いかにもな盲導犬。てきぱきと仕事をこなし、ゼミのみんなは「すげえ」と感心していた。
そんな様子を見ていたネモは、ちょっと寂しそうにしていた。そんな気がした。
教授の部屋で、その黒いレトリバーも、ハーネスを外して休んでいる。
私が触る。すると犬は、コロコロと体を動かしてお腹を見せる。あのエリート盲導犬が、普通の人なつっこい犬になった。こんなに人に慣れるなんて、とまわりがびっくり。
・・・・・
盲導犬は、結構早く歩く。いやまわりから見たらそうでもないんだけれど、目隠ししている私たちは、やはり不安なのか、歩みが遅くなる。そんな私たちを、盲導犬は普通に誘導するから、体験している私たちには、盲導犬の案内をとても早く感じるのだ。
盲導犬と使用者とを繋ぐ「ハーネス」。盲導犬が体につけている金属の棒だけれど、これを触ると使用者がびっくりするから、決して触ってはいけないこと。視覚障碍者を案内する際には、声などで案内することを教わった。
それはもう20数年前のこと。ネモはもちろん、「エリート盲導犬」ももう生きてはいまい。
その頃と比べて、日本は障碍者に優しい社会になっただろうか。ちょっとした誤り(厳密にはそうとも言えないと私は思うが)に対して、ヘイトスピーチがネットを飛び交うこの時代。この盲導犬を傷つけるという事件も、同じような傾向を感じざるを得ない。
果たしてあれから私たち社会は、知的に進化したのだろうかと、思い悩む今日この頃である。
教授は仕方なく、ネモを外に連れ出す。
学生はびっくりしている。だって20年以上前であっても、盲導犬のことは世間一般には知られていて、仕事中は鳴かないものだ、と思っていたから。
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教授とゼミ生で合宿に行く。教授の隣を歩いていると、突然ネモが、不意に向きを変えて「ウーッ」とうなる。
まわりのゼミ生が「えっ」という反応をする。
ネモの目線の先には、ネコがいた。
「ネコを見るとだめなんだよ、ネモは」と教授がぽつり。
その合宿で夕食時、教授のそばにいたネモは、ハーネスを外している。仕事から解放されたのだ。そんなときのネモは普通の犬になる。
がばっと突然起き上がり、「ワンワン」と吠える。何かがいたのだろう。ネコかな。
みんなびっくりする。「盲導犬も吠えるんだ」と顔を見合わせる。
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あるときゼミで、盲導犬の体験をしてみようということになった。黒いラブラドールレトリバーがやってきた。毛の艶よく、いかにもな盲導犬。てきぱきと仕事をこなし、ゼミのみんなは「すげえ」と感心していた。
そんな様子を見ていたネモは、ちょっと寂しそうにしていた。そんな気がした。
教授の部屋で、その黒いレトリバーも、ハーネスを外して休んでいる。
私が触る。すると犬は、コロコロと体を動かしてお腹を見せる。あのエリート盲導犬が、普通の人なつっこい犬になった。こんなに人に慣れるなんて、とまわりがびっくり。
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盲導犬は、結構早く歩く。いやまわりから見たらそうでもないんだけれど、目隠ししている私たちは、やはり不安なのか、歩みが遅くなる。そんな私たちを、盲導犬は普通に誘導するから、体験している私たちには、盲導犬の案内をとても早く感じるのだ。
盲導犬と使用者とを繋ぐ「ハーネス」。盲導犬が体につけている金属の棒だけれど、これを触ると使用者がびっくりするから、決して触ってはいけないこと。視覚障碍者を案内する際には、声などで案内することを教わった。
それはもう20数年前のこと。ネモはもちろん、「エリート盲導犬」ももう生きてはいまい。
その頃と比べて、日本は障碍者に優しい社会になっただろうか。ちょっとした誤り(厳密にはそうとも言えないと私は思うが)に対して、ヘイトスピーチがネットを飛び交うこの時代。この盲導犬を傷つけるという事件も、同じような傾向を感じざるを得ない。
果たしてあれから私たち社会は、知的に進化したのだろうかと、思い悩む今日この頃である。