「風評」ではない。
「風評被害」に惑わされてはいけない、のだ。
30日、新聞各紙に放射線量の実測結果が出た。
朝日新聞の記事---
東京電力福島第一原発から半径100キロ圏内の土壌の汚染度を調べた初の地図を、文部科学省が29日公表した。全国の大学や専門機関が約2200カ所の土を採取し、事故から3カ月後の放射性セシウムの濃度を調べた。除染や避難区域の見直しなどの基礎資料とする。
文科省の調査には延べ129機関、780人が協力した。80キロ圏内は2キロ四方、80~100キロ圏内は10キロ四方に1カ所の割合で、それぞれ5地点で深さ5センチの土を採取。6月14日時点の、半減期が2年のセシウム134と、30年の137の値を出した。
汚染度が高い地域は、原発から北西方向の半径40キロ圏内に集中していた。最も高い大熊町の1地点では、セシウムの合計値は1平方メートルあたり約3千万ベクレルに上った。(引用終わり)
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こちらが一次資料
(文部科学省による放射線量等分布マップ(放射性セシウムの土壌濃度マップ)の作成について,平成23年8月30日,PDFファイル) 5月8日に発表された予測数値とおおよその部分で相違はないようだ。 原発震災後、長らく避難勧告がなされなかった、いや、今でも避難勧告がなされていない地域も、やはり深刻な放射能汚染が明らかになったのだ。 この事態を誰が生み出したのか、言うまでもない。
5月の放射能拡散予測が出されたときも思ったのだが
(文部科学省と米国DOEによる航空機モニタリング,2011年5月6日,PDFファイル)、この広範囲の拡散は、食物にどのような影響をもたらすのだろう。食品や居住に関する放射能の基準値が決められて、それ以下は安全である旨の報道が多いが、それはどのような知見によって得られたのか実に心許ない。
というようなことを私はこれまでも書き続けてきた。
実際東北や北関東の食材を忌避する人も何人も知っている。
そして最近は「風評被害」という言葉がマスコミを賑わすようになった。あり得ないほど安価になった福島産の桃を見るに、チクチクと心が痛む。
しかし考えてみたい。これは「風評」なのだろうか。
安全性が問われた食品が忌避される事例は枚挙にいとまがない・・のだが
数年前、中国産餃子にメタミドホスが混入され、日本人が中毒を起こした事件があったことは記憶に新しい。そのとき、中国産の餃子が大量に売れ残った。中国産の食品全般に疑いの目が向けられ、日本産を高らかに謳う商品がやたらと増えた。
HACCP認証工場でのこの事件は、どう考えても故意に起こされたものであり、中国の食品全般に波及する問題ではなかったはずだ。
メラミン入り牛乳が問題になったときも、中国産うなぎでマラカイトグリーンが問題になったときも、全部が全部そうじゃないのに、中国産食材の売れ行きが悪くなった。BSE問題が発生したとき、日本の基準に沿わずに牛肉を輸出した合州国は、日本の消費者の厳しい批判を浴びた。牛肉からBSEに感染する可能性は限りなく低いというのに。
多くの生産者は、悪意をもって食品を生産しているのではない。しかしこのような事件が発生したら消費者は選択する。それを買わないという選択肢を。
買うものを選ぶ権利は消費者にある
今回の原発事故による放射能汚染。いろいろな調査結果があり、いろいろな情報が飛び交っているけれど、どんな情報をよりどころにするかは消費者だ。それをもとにどう判断するかは、出来合いのものを買うしか事実上の選択肢がない消費者の、当然の権利なのだ。
リスクの明らかな、それが数百万分の一の確率であることが明確な場合であっても、それを忌避する人はいる。そう判断するのは、その人の自由であり権利なのだ。
ましてや放射能のリスクについては、イマイチあいまいな点がある。それを-過剰にであっても-避けようとする心理を、誰が否定できようか。
あえて断言したい。
それを「風評被害」と言って消費者に罪悪感を抱かせてはならない。消費者は-生産者にとっての-敵ではない。
原発震災の真の責任から目をそらす「風評被害」キャンペーン
ではここでもう一つ重要なことを考えたい。
なぜ「風評」が発生したのか。「風評」が発生するには原因があるのだ。それは何か。上記中国や合州国の食品は、いずれも生産者もしくは流通にも何らかの問題があるケースだ。しかし今回の東北・関東の食材に対し、生産者の落ち度はどこにあろうか。
何もない。一切ない。何一つない。
どこが問題だったのかは言うまでもない。「東京電力」はじめとする電力会社と、原子力発電を推進している古今東西の政治家、官僚機構、そして学者連中だ。
「風評被害」というキャンペーンは、この本当の責任者から目をそらし、生産者と消費者を分断する役割を果たしている。
そして結局のところ、真の責任者が、その責任をどれだけ回避するか、損害賠償額をいかに減らすか、そうした観点からの「風評被害」キャンペーンなのではないかと私は考えている。
風評被害の責任は、これら原発推進勢力に帰せられるものだ。
東北・関東産を避け、関西や海外製品を口にしている人たちに向けられるものではない。
見誤ってはならない。責任を回避しようと躍起になっている勢力に、騙されてはならない。
ただ、個人的には・・
とそんなことを福島産の桃を食べながら思う。今年の桃は格別にうまいわな。個人的には毎日大量に食べるものでなければ、あまり気にしなくて良いんじゃないかと思っているのだが。
ただしそれは大人だけ。子どもに対してはより慎重に対応中。
*私は最近意図的に「放射能」「放射性物質」「放射線」という言葉を一緒くたにしている。専門家でもない私が、それらの言葉を使い分けることに意味があるとは思わないし、専門的な分野に対して、より正確な文言でそれを語らなければ発言権がないかのような「専門性の罠」に陥らないよう、あえてそうしているというのもある。(これは「原子力村」に限らず、専門家集団なら大なり小なりどこにでも存在する思考でもある。そう。コンピュータの世界にもね。)