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過労自殺訴訟は一審敗訴-不真面目な会社側弁護士と裁判官のこと [川田過労自殺事件]

 川田さんの事件の判決が出た。
 13:10の開廷までに支援者約80名が傍聴席を埋め尽くした。Press向けの座席も確保されており、満員の法廷の中で裁判官3名が現れた。
 裁判長はうつむいたまま、ぼそぼそとしゃべりはじめ、すぐに判決主文を読み上げた。

「原告の請求はいずれも棄却する」 「訴訟費用は原告の負担とする」

不当判決だ!との声の中、1分もたたないうちに裁判官は退廷した。

 裁判後、弁護士会館で報告集会が行われるが、A4で50ページ弱ある判決文を精査するため、弁護団が検討に入った。会場ではとりあえず意見交換が行われたが、あまりに小さい判決主文の朗読だったため、内容を聞き取れないままの傍聴者も多かった。私がとりあえず判決主文を説明した。
 この間の裁判過程で、多くの意見書や証書を積み上げ、会社側の言い分を論破してきた弁護団。現職社員からの会社批判すら出た証人尋問。そしてそれらに対し、会社側弁護士は何もしなかった-本当に言葉通り何もしなかったのだ。支援者からの要請署名は2万5000筆、裁判結審からの裁判所への要請ハガキは1000通以上届き、大手マスコミ各社にも報道されるほどの注目度。だからこそ、この判決は信じられないという印象を、傍聴者すべてが抱いたのだった。裁判判決後、約30分後に戻った弁護団の報告を聞いて我々は驚愕した。

 弁護団が判決文を精査して、弁護団が主として主張してきた論点について、判決ではどのように評価しているかを説明した。以下がその内容である。

1.集合研修の不十分さ-期間の半減とコストダウンについて
 研修期間は彼が入社した前年の、約半分に短縮されていた。理由はコストカット。社長が代わり、コストダウンが叫ばれる中、研修もその対象となった。その削減金額すら明らかになっている。研修の総括評価として、当時の社内文書でさえ不十分さが指摘されているほどの内容であった。
判決ではこれを不十分な研修内容と認めず、期間短縮は合理的な理由があったとしている。「合理的」の理由について我々は完全に論破しているのだが、その点については触れていないようだ

2.実地研修(OJT方式)の事実上の破綻
 川田さんが配属された現場は、社内でもかなり高い技量を必要とする部門であった。彼の選抜理由は「名簿順」ということが裁判の中で明らかになり、能力別とか習熟別という判断ではなかった。現場業務は先輩職員が彼に業務を教えることができなかった状況であり、そもそもOJTの担当者が明確でもなかった。会社側は当時のOJT担当者を、裁判の過程で変更している。どれほどカオス状態であったかの証左でもある。
業務は困難ではなかったとの判断のようだ。課題業務をやり遂げていることからもそれが証明できていると言うことらしい-以前のエントリにも記載したが、これでは仕事の「やり損」だ。

3.うつ病罹患と会社のうつ病に対する認識および対策の欠如
 7月末から彼はうつ病に罹患していた。それが社内でもはっきり分かっているにもかかわらず、上司は裁判の中で「胃の調子が悪い程度にしか考えていなかった」と言った。この人物は自殺7日前、彼とファミレスで自分だけ酒を飲みながら面談したという一面もある。うつ病患者にどのような対応をするかは、管理職なら誰もが知っていることだから、ここではあえてふれない。
会社が主張していた、川田さんのうつ病の罹患について、会社が認識できなかったという点は、裁判所で否定された。しかしその後の対応についての評価がない。これではうつ病にかかった社員への対応を、事実上必要としないということになってしまう

4.退職表明後の会社側の決定的な落ち度
 自殺の当月、彼は会社に退職を表明し、慰留された。その後夏休みを取得して再度出勤する際に、退職届を出して受理されている。会社側は雇用保険の取得との関係で退職期間を延ばしたと言い訳をしているが、有給休暇も十分残っており、そのまま退職でも良かったのだ。しかし会社は出社を提案し、彼はそれを飲まざるを得なかった。自殺直前、彼は「(休めば)会社をクビになってしまう」という発言をした。最後の数日間は彼の自由意志からの出社だったのであろうか。
出社を事実上強制しているかどうかを判断せず、「半強制的に休暇を取らせることを会社が行う必要はない(要旨)」という、転倒した論旨で合理化した。単純な論理の転倒で評価にすら値しない愚論

 最終的にこれら弁護団の意見を、飛躍した論理で会社側に都合のいいように合理化し、結果この間の労災、過労死・過労自殺裁判の判決からも、大いに後退した愚判決であった。

 同日「スズキ」の社員が過労自殺したとして、静岡地裁が5,867万円の支払いを命じる判決を出した。ここでは月100時間を超える残業が、一つの判断基準になったのだろう。過労死の判断は月80時間以上の時間外労働が一つの目安となっているためだ。
 しかし過労自殺、特にうつ病が機械的な条件設定では推し量れないことは自明のこと。「現代思想」11月号にリハビリテーション特集が組まれていて、昨今話題のリハビリ日数制限を批判し、リハビリは非常に個別性のあるもので、機械的に期間を設定することは現状に反するとの論文が掲載されていた。ストレスや精神障害もこの点に関しては全く同じものだ。
 だからこそ弁護団は精神科医らによるさまざまな意見書を提示してきたのだし、現職社員を含めた多くの証人尋問を行ってきた-その中には現職社員でありながら会社の不当性を指摘した勇気ある方もいた。それらに、前述の通り会社側弁護士は、何の反論も行わず、最後の裁判には遅刻してくるなど怠惰な姿勢をあらわにした。
 こちらの弁護団が常に真摯に証拠をあげ続け、証人尋問も十分な準備を行い対応する中で、何もしない会社側弁護士の無策ぶりが際だった、そんな裁判が1年以上も続いていたのだった。

 支援者の、この判決に対する無念さがご理解できるだろうか。

 我々は当然控訴する方針をマスコミに伝えた。たたかいは長くなりそうだ。しかし原告を誰もが見捨てないことは明確である。この裁判が、愚かなマネジメントに苦しむ若手社員の苦悩を、少しでも和らげるものとなるためにも、私たちはたたかい続けるだろう。

 そしてこれは、同様の人材マネジメントで多大な苦難を受けた、私自身のたたかいでもある。


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コメント 4

ウルトラマンシュンペーター

こわい。いたねそのようなひと。しごとスキャニングだけ、だった。こわい。
by ウルトラマンシュンペーター (2010-07-10 21:54) 

Mosel

古い記事にコメントありがとう。
「こわい」が何を意味しているのかは、あなたの文章からイマイチ判読しにくいですが、スキャンニングだけの人を生み出してしまう会社・組織は私も「こわい」と思います。鬱病が発生する組織というのは、別にわざとやっているのではないというのは経験上よくわかりますが、しかし鬱病を発生させた事実そのものが、組織に病理を抱えていることの証左と思います。
鬱病者を忌避する感情は全く共感できないにしても、その思考経緯については理解・分析可能です(そんな職員を何人も見ています)。鬱病は誰でもかかります。明日は我が身、ということを考えたいものです。実はあなたのBlogをはじめとする文体からも、私はあなたの境遇を心配に感じています。
by Mosel (2010-07-12 22:38) 

ウルトラマンシュンペーター

ほんとは、僕もそういう、例、知ってるよ、あったよ。奥さんスーパーに買い物にいって、もどったら、課長死んでたよ。僕もあれいなくなったな、と思ってたら。あ、そうだったのって、同僚からきいたよ。僕にパソコン教えてくれた、やさしい課長だったよ。
by ウルトラマンシュンペーター (2010-07-16 10:14) 

Mosel

課長さんのお話、寂しくて、残念なことでしたね。職業柄、私も「この人って労災じゃないのかな」と思うような患者を何人か見てきました。本当なら労災申請とか損害賠償とかするべきなのでしょうけれど、これらの手続きって本当に手間のかかることで、誰もが出来ることではないんです。だからこのようにたたかっている人を私は支援したい。過労で死んでいく人がなくなるような社会を作りたい、と思っています。
やさしい人や真面目な人が、真っ先に死んでいく社会は切ないです。
by Mosel (2010-07-17 07:54) 

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